ヒトを含め複雑な社会をもつ生物にとって、血縁関係を超えて様々な他者と協力し良好な関係を維持する事は、生存する上で非常に重要である。近年、個体間で起こる同調行動が、他者との親密な関係形成を促す事が示唆されている。そこで本研究では、ヒトを含めた霊長類を対象に、外部刺激に対する同調傾向を調べ、そうした傾向が自己・他者表象や利他的行動へ与える影響について実験的に検討することを目的として、平成24年度から研究を行ってきた。前年度に整えた実験環境を用いて、本年度は、さらに複雑なリズムに対するタッピングの同調傾向について、ヒトとチンパンジーを対象に実験を進めた。具体的には、一定期間電子キーボードへのタッピングを行う間に、等間隔の音のリズムにさらにアクセント音を加えた刺激を提示し、タッピングのリズムが音刺激に対してどのようにひきこまれるのかについて調べた。繁殖計画等の理由から、データ収集が完了していないチンパンジーもいるが、前年度で行ったメトロノーム音を用いた実験同様に、音刺激が自発的なテンポに近い場合には、引き込みが観察された。また、強いリズム音を提示した際に、訓練されたタッピングとは別にチンパンジーが自発的に体全体をを揺らす、ロッキングに近い行動を示すことも、観察により確認された。これらの結果から、音楽で用いられる複雑なリズムについてもある程度はヒト以外の霊長類も知覚可能であり、自発的に体の動きをそれらに合わせる傾向を持っていることがわかった。こうした行動傾向は、高度な音声コミュニケーションとは別に、ヒトの進化の過程で獲得されてきたことが示唆される。
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