研究課題
若手研究(B)
高齢者は自身の記憶能力を適切に評価することが困難であり,いくつかの研究は記憶に対する評価が高い高齢者ほど,記憶成績が悪いことを報告している(記憶のエイジングパラドックス)。この記憶に対する評価(メタ記憶)と実際の記憶成績の乖離は,加齢による記憶機能の低下に対する自発的な対処を阻害する原因となり,「薬の飲み忘れ」,「約束を忘れる」といった自立した生活や社会活動上で問題を引き起こす。本研究事業では,高齢者の記憶機能低下に対する新たなアプローチの開発を目指して,高齢者のメタ記憶の中でも記憶モニタリングに着目し,適切なあるいは不適切な記憶モニタリングに影響する要因を縦断的に検討することを目的としている。本年度の目標は,記憶モニタリング課題を作成し,作成した記憶モニタリング課題の信頼性・妥当性の検討したのち,次年度以降の縦断的実験研究にむけて必要に応じて課題の修正をおこなうことであった。具体的には,高齢者が抱く記憶愁訴の中でも最も訴えが多い「人の名前と顔の記憶」についての実験課題を作成した。一般成人25名の驚き,怒り,笑い,無表情の4種類の表情の顔写真を撮影し,その後,それらの表情が実際に,驚き,怒り,笑い,無表情を表す表情として妥当かどうかについて,一般成人50名を対象として検証実験を実施し,妥当性を確認した。また,表情の印象評価に当該人物の自己紹介文が及ぼす影響を検討し,自己紹介文が印象に与える影響が表情によって異なることを明らかにした(ネガティブな表情,無表情にポジティヴな自己紹介文を記載すると,表情のみ提示するときより,良い印象を与えるが,ポジティヴな表情に自己紹介文を提示しても,自己紹介文の影響が認められない)。人物の記憶には,当該人物の印象が影響することは十分に予測される。次年度以降は本研究の結果をふまえて,人物の記憶に対するモニタリングの研究を実施していく。
2: おおむね順調に進展している
本年度の目標は,次年度以降使用する課題を作成することであった。本年度は,人物の記憶モニタリング課題に使用する顔表情の刺激を作成しており,当初の計画とおり,おおむね順調に進展していると考えられる。
平成25・26年度は,これまでに研究代表者が対象としてきた高齢者に対して,記憶モニタリングの実験を実施し,加齢による認知機能や身体・精神的健康の3年間での変化が記憶モニタリングに及ぼす影響について縦断的な検討を行う。
次年度は研究計画遂行のために以下の項目について研究費を使用する予定である。実験実施旅費(300,000円),実験被験者謝礼(500,000円),実験補助アルバイト(200,000円),刺激呈示用PC(400,000円),研究成果発表旅費(200,000円),実験消耗品費(150,000円),印刷費(50,000円)
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (7件) (うち招待講演 1件)
心理学研究
巻: 83 ページ: 409-418
神戸大学大学院人間発達環境学研究科紀要
巻: 6 ページ: 29-35