研究課題
本研究では、母親と子の情動的関係性が、母親顔表情認知にどのような影響を与えるのかについて、閾値下刺激を用いてその神経基盤を明らかにすることを目的とした。研究には12名の大学生が被験者として参加し、それぞれが自身の母親の笑顔・真顔・怒り顔の写真を準備し研究に持参した。刺激としてはバックワードマスキング法を用いた。すなわち、短時間の視覚刺激の直後に長時間の刺激提示を時系列的に行う方法である。本研究ではまず、この「短時間」が具体的に何ミリ秒であればよいのかについて同じ被験者に協力してもらい行動実験を行った。その結果、ディスプレイの1フレームである17ミリ秒であれば表情判断の正答率がチャンスレベル以下になった。次にバックワードマスキング法を用いて機能的イメージング実験を行った。この際には、短時間刺激(17ミリ秒)+長時間刺激(483ミリ秒)の組み合わせで、視覚刺激を行った。短時間刺激として、自身の母親の笑顔・真顔・怒り顔に加えてコントロールとして見知らぬ母親(他の被験者の母親)の笑顔・真顔・怒り顔を用いた。このような刺激を使いまわすことにより、本研究の結果は、メガネをかけている等の顔写真の特性による効果ではなく、母親顔そのものによる効果であることを示せる。さらに「知っている顔」効果を排除するために、自身の同性の友人の顔表情写真(笑顔・真顔・怒り顔)も用いた。機能的MRI実験の結果、自身の母親の怒り顔を閾値下(短時間)で提示すると左側外側眼窩皮質の活性がみられた。この活動は友人の怒り顔の閾値下提示ではみられなかったことから、自身の母親の怒り顔を閾値下に知覚した際に特異的な脳活動であることを示せた。これらのことから、左側外側眼窩皮質は、友情のような親密さに関係せず、自身の母親の怒り表情の無意識的知覚に関与することが示唆された。
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Journal of cognitive neuroscience
巻: 27 ページ: 453-463
doi:10.1162/jocn_a_00718
http://web.sapmed.ac.jp/physiol2/achievement.html
http://researchmap.jp/jshino