本研究ではヒトの無意識的処理が意思の力によってコントロールできるかどうかを検討することを目的とした。具体的に言えば,無意識的に活性化される様々な情報を意思の力で増幅,あるいは抑制できるかどうかに要点をあてて検討していく。本年度の実験は意思の力によって単語表象の無意識的な活性化を抑制できるかどうかを選択的注意課題を用いて検討する。被験者は呈示されたターゲット刺激に反応するが,masked条件とunmasked条件を設定し,見えなかった場合でも強制判断を行う。閾上,閾下に呈示される顔刺激に対して注意を向ける条件と顔刺激は無視する条件,特に注意をどこにも向けない中立条件を設定した。MEG実験を行った結果,刺激呈示後200ms近辺で観察される事象関連磁場が紡錘状回において注意の影響を受けることが明らかになった。この成分に対する注意の影響は刺激の閾上,閾下呈示に関わらず観察された。顔刺激に注意を向けさせた場合には成分振幅は中立条件と比べて増強し,逆に顔刺激を無視させた場合には中立刺激と比べて振幅が減少していた。閾上呈示だけでなく閾下呈示に対しても注意の影響が観察されたことは,意識が介入しないごく初期の知覚処理に対して抑制がかかることを示しており,無意識的な処理も我々が抑制できることを証明したといえる。またこの効果はobject baseの注意に関して発生しており,無意識的ではあるが,比較的高次な処理に注意が重要な役割を果たすことを示している。
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