研究課題/領域番号 |
24700273
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
田中 冬彦 大阪大学, 基礎工学研究科, 准教授 (90456161)
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キーワード | 統計数学 / 数理工学 / 量子コンピュータ / 情報工学 / 応用数学 |
研究概要 |
本研究課題では、量子統計モデルについて、客観的な事前分布の指針を与えることを当初の研究目標のひとつに掲げていた。計画当初は一般論が難しいことを想定し、量子ガウスモデルのような特定のモデルで深く調べたのち、それらの知見をてがかりにして最終年度で一般論を目指す予定だった。ところが、本年度までの幾つかの関連研究の調査に基いて、パラメータ空間がコンパクトな場合の事前分布に関して一般論を導出することができた。具体的にはleast favorable prior とPOVM(測定)に関するミニマックス定理を一般の場合(線形位相空間)に証明した。これから広範な問題設定でミニマックス測定がベイズの方法で構成できることが示される。 従来は群論的な対称性をもつモデルのみ詳しく調べられていた。部分的な情報が与えられている場合、統計モデルの対称性がなくなるため対称性に立脚した手法では問題が全く解けなかった。このようなケースでの一般論は離散的なケースでの初等的な証明しかない。私は、一般の線形位相空間で成立する幾つかの関数解析の結果を利用してミニマックス測定とベイズ測定の間の関係式を証明した。本成果の帰結は以下のように幅広い。 1)正則条件の下、うまい事前分布に基づいてベイズ測定を構成すればミニマックス測定が構成できる。 2)数理統計の先行研究では、考察する事前分布のサポートが有限集合に限定されるが、パラメータの信用区間を作るといったベイズ統計の観点からはきわめて不便であった。本研究の成果は量子統計モデルでの無情報事前分布の選び方の指針も示唆している。 3)実験への応用としては、実現可能な測定のクラスで最適な測定を探す問題が生じる。このような測定の全体がコンパクト凸集合であれば上の定理が同様に成立する。したがって、量子物理実験で望ましい測定方法を設計する指針を与えることにもつながる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究目的のは時系列モデルと量子統計モデルを研究対象としてきた。本年度までの研究で後者の研究目的は十分に達成できた。一方で、時系列解析の統計モデルに関しては、本年は研究上の進展はあまりなかった。残り2年間を時系列モデルに専念すれば、これらは十分、遂行できることが見込まれる。そのため、全体的にみて順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
量子統計モデルに関する研究が前倒しで先に進んでしまったため、論文執筆・成果発表以外はいったんクローズする。ただし、例年通りRIMS研究集会で物理サイドとの議論の場は設ける。(開催年ごとにフォーカスするテーマも変えているため、必ずしも数理研での開催にこだわらない。これらの取り組みは継続的に行うことが重要であり次年度後半にはまた申請も行う。)また、現状の成果に対しさらなる研究の発展が見込まれる。この点については独立した研究課題として他の研究資金に申請する。 今後、本課題の研究は時系列モデルを中心に行っていく。具体的にはH24年~H26年に相当する部分に本格的に着手する。既に文献収集に関してはひと段落しているため、当初の計画に沿って数値実験も駆使しながら研究を進めていく。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度は平成25年10月に大阪大学に異動したため研究経費の執行予定は変化した。 具体的には、本年度後半の研究集会発表、出張は最低限におさえた。また、論文投稿の作業も一時中断した。次年度使用額が生じたのはここに起因するものが大きい。 平成25年10月に大阪大学に異動したため平成26年度前半も交付申請当初に予定した状況とはかなり違っている。次年度後半から研究発表とそれに伴う出張を増やしていく。 加えて、当初の予定通り、研究の補助的な作業は謝金バイトを利用する。ホームページ作成業者を利用して研究成果の発信を積極的に行っていく。既存の計算機の一部がかなり古くなってきたため買い替えも行う予定である。
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