研究課題/領域番号 |
24700285
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研究機関 | 兵庫医科大学 |
研究代表者 |
大門 貴志 兵庫医科大学, 医学部, 准教授 (40372156)
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キーワード | がん臨床試験 / 用量探索 / Bayes流接近法 |
研究概要 |
がん治療法の臨床開発過程における早期の段階,いわゆる第I相試験又は第I/II相試験では「用量探索研究」が実施される.そこで決定される用量は,後続の第III相試験,ひいては日常診療で用いられる用量の基盤を与えるものである.本研究の目的は,主に多剤併用化学療法を行う場合の各抗がん剤の最適用量の組合せの決定のためのデザイン及び統計的推測法を開発することである. 本年度では,先ず,前年度の発展として,最近話題の「標的療法(targeted therapy)」における既存のデザイン及び統計的推測法をはじめ,その周辺の話題を国内外の統計・臨床論文から洗い出し,それらの総括を洋書に寄稿した.前年度に公表した総説と共に,この総括は,過去から最新のデザインと統計的推測法を整理したものであり,当該分野におけるさらなる研究開発及び進展の大きな基盤を与え得る.その他,がん臨床開発過程全体におけるデザイン及び統計的推測法を扱った洋書の訳出も行い,その日本語版が成書として印刷中である.これらは,がん治療開発に従事する臨床家にとっても役立つ大きな成果と考えられる. 次に,前年度に引き続き,真の用量反応関係に対して,複数の薬剤の用量及びそれらの間の交互作用を柔軟に組み込めるロジスティック・モデルを複数仮定し,Bayes流情報量基準や事後予測分布を通じてそのうちの最適なモデルを選択し,その選択されたモデルのもとで用量探索を行う「モデル適応的用量探索デザイン(model-adaptive dose finding design)」を深耕した.前年度においてはモデル選択の視点に注目したが,今年度においては,事後予測分布から予測点検関数を構築することで,信頼できないモデルを除外する手順を付与した.これによって,従来のデザインよりも良好な用量探索が可能になり,がん治療法の早期臨床開発段階に大きく寄与すると考えられる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は,多剤併用化学療法を行う場合の各抗がん剤の最適用量の決定のための用量探索研究のデザイン及び統計的推測法を開発することである.この目的を達成するために,当該年度では,(1) 研究課題の一つである実地の臨床医からの要請,例えば,薬剤の毒性のグレードを許容できる,患者の不均一性を考慮できる,患者背景因子を共変量として活用できる,等の新しいデザイン及び統計的推測法の開発に順次着手する,(2) 本研究での諸種の成果の適用可能性について研究協力者と議論し,そのうちの適用価値の高いものを抽出し,総説として統計論文及び臨床論文で公表する,ことを主に計画していた. (1) については,今後の本研究開発の基盤となる,ロジスティックモデルを基調においた方法論を国際誌に公表し,患者の不均一性を考慮することや患者背景因子を共変量として活用することの土台をすでに与えている.また,順序カテゴリデータとして得られる毒性グレードについては,順序カテゴリロジットモデル,比例オッズモデルなどでロジスティックモデルで置き換えることで,本研究で開発した方法論はそのまま活用可能である.今後,これらの方法論に関して,シミュレーションや実データによる性能評価を行うことが必要になる. (2) については,臨床家向けのいくつかの雑誌に総説論文を公表するとともに,最近話題となっている標的療法のデザインや統計的推測法を紹介した記事を国内外の研究者に向けて洋書に寄稿した. これらの成果により,本研究の来年度へ向けての深耕の礎ができたと考えられ,本研究は概ね順調に進展していると考えた.
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今後の研究の推進方策 |
前年度と同様,研究代表者,国内研究協力者,海外研究協力者からなる研究体制を今後も生かす.具体的には,国内研究協力者からは,臨床的視点からの本研究に関する意見や助言を獲得する.また,海外研究協力者からは,統計的視点からの本研究に関する意見や助言を獲得し,本研究課題の共同開発を引き続き行う.
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次年度の研究費の使用計画 |
学内業務及び研究に必要な作業時間の確保のため,当初計画していた国際学会及び国内学会へ参加できなかったため. 近年,本研究でとり扱う課題は,がんの分子標的薬や免疫療法の開発とともに,大きな注目を浴び,急速に進展している.本研究のさらなる進展も目的とした学会・研究会への参加ももちろんだが,国内外のこの最新の研究動向のさらなる調査が急務である.それ故,このための旅費に主に充当する計画である.その他,研究成果の国際誌への投稿に際しての英語校正費,データ及び研究結果等の保存のために記憶媒体 (シリコンディスク等) のための消耗品費,などに研究費を充当する計画である.
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