研究課題
昨年度に引き続き,脳画像や遺伝子など脳に関するデータから,疾患の治療や早期発見に役に立つような,原因または特徴などの有効な情報を取り出すための統計解析手法の開発を目的として,本年度は次のような研究成果をあげた.本研究では,昨年度から開発に取り組んでいる合成基底関数法を基盤としており,それに関する研究を行った.これは,膨大な情報を持つ脳画像を効率的に次元圧縮し,統計学的推測を可能とする方法である.さらにはその推測結果を元の脳画像の次元に復元することが可能であり,結果の臨床的な解釈において役に立つ事が期待できる.本年度は,脳画像のスパース性をモデル化する方法について研究を進めた.この方法により疾患に関連する脳部位を同定し、結果の解釈がより容易になる事が期待される.脳画像から萎縮をとらえ認知症発症を予測するための方法論について,数値実験によりその有用性を示す事ができ,論文投稿の準備を行っている.また,認知症発症予測に関連する脳部位と臨床検査値や脳髄液バイオマーカーとの関連を調べるための方法を開発し,その成果を計量生物学会年会で発表し,論文が日本統計学会和文誌に掲載された.脳疾患に関する臨床研究において,本研究と関連する統計学的手法を駆使して次のような有用な成果を上げることができた.脳MRIから原発性中枢神経系リンパ腫に対する病変頻度マップを作成し,その成果を Neuro-Oncology誌に論文として発表した.遺伝子の発現が標準病理学より客観的に神経膠腫サブグループを定義するのに有用かどうか調査した.3つの遺伝子と年齢による予後予測スコアが,グレード4の神経膠腫の予後をよく予測することを示し,その成果をCancer Science誌に論文として発表した.また,地域住民コホートにおける脳画像解析を鳥取大学医学部との共同研究として開始し,初期的解析結果を学会発表した.
2: おおむね順調に進展している
本年度は途中に異動したため,研究に充てる時間が少なかったかもしれない.またさらに,昨年度,国際学会で発表した内容において,推定の安定性が十分でない事が判明した.そこで,今一度方法論を見直すために,情報収集を行った.その成果として,昨年度国際学会発表した内容に改良を加え,研究中の合成基底関数法の拡張により経時測定脳画像解析に適用可能を見込む事ができた.こうして,少し回り道になったが,これまで研究してきた内容を活用できる方向で,かつ,より良い方法になる事も見込まれ,次年度につながる進捗であったと考えられる.脳画像から疾患を予測するための方法論について,基礎となる研究成果を学術論文として発表した.その経時測定への発展もすでに取り組んでおり,昨年度から本年度までに研究を加速させるための十分な知識と技術を得ているため,期間内で最終的な研究成果を出せる事が見込まれる.
26年度は経時測定の方法論を詰めていく.昨年度までに再考した案を具現化していく。アルゴリズムの開発及びコンピュータプログラムの作成を行い,公開されてある脳画像データに適用し,実行可能性と計算効率に関して検討する.文献,公開ソースコードやこれまでの研究で用いたソースコードそして技術を活かして効率的に行う.開発した方法および関連する技術を臨床研究に応用する.開発手法に含まれる次元縮小法は疾病予測のみならずさらに応用が可能であり臨床情報との関連を調べる事も可能であると考える.脳ドックセンター長の朴教授と共同研究をはじめ,脳ドックにおける脳画像と人間ドックにおける健康検査値との関連解析を行う予定である.また,岩手医科大学の山下典生氏とはここ数年互いに協力し合いながら画像解析を進めてきた.今後も打ち合わせながら研究を進めていく.このような共同研究から臨床的情報を取り入れながら臨床現場に役に立つような方法論の開発を目指す.方法論について客観的な意見を得るために,ノースカロライナ大学のYoung Truong 教授, Haipeng Shen 准教授とディスカッションを行いたい.両先生とも脳fMRI 解析を専門として統計手法の先端研究を行っており共同研究を行った事もあるため,方法論及び理論面からも有益な助言を得ることが期待できる.
すべて 2013 その他
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (1件)
Cancer Science
巻: 104(9) ページ: 1205-10
10.1111/cas.12214
日本統計学会和文誌
巻: 43(1) ページ: 85-97
Neuro-Oncology
巻: 16 (5) ページ: 728-734
10.1093/neuonc/not319