研究課題/領域番号 |
24700288
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研究機関 | 統計数理研究所 |
研究代表者 |
小林 景 統計数理研究所, 大学共同利用機関等の部局等, 助教 (90465922)
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キーワード | 代数統計学 / 情報幾何学 / 漸近理論 / 統計的推測 |
研究概要 |
計算機代数学とは,グラブナー基底に代表される代数学的手法や多項式計算アルゴリズム等の研究分野であり,近年ソフトウェアの開発と普及が進んでいる.本研究ではこれを用いて統計学的に有効な推定量を計算することが目的である. 具体的には,ポアソン分布や多項分布などの分割表モデルや,ガウス分布で共分散行列に多項式制約がつく場合など,モデルが多項式を用いて表される場合を考える.この場合において,まずフィッシャー情報量やアファイン接続,埋め込み曲率などの情報幾何学的量を代数的に計算し,二次漸近有効性の十分条件をこれらを用いて表した.次に,この二次漸近有効な推定量のクラスの推定方程式は代数的に単純な形をしていることを利用し,その中に2次以下の連立多項式方程式で表されるようなものが存在することが示される.また,尤度方程式からグレブナー基底による剰余を行うことにより,その連立多項式方程式を導出することができる.多項式の次数が下がると,ホモトピー連続化法などの数値計算手法を用いた推定値の計算の計算量を大幅に削減できるという利点がある. 本年度は特にこれらの得られた成果を,国際学会Geometric Science on Information 2013で発表,20%Selected paperとして,Geodesic Theory of Information, Springerに採録予定である. この他,代数統計学の分野との共通点も多いTree Spaceという木のグラフの集合に関する理論とアルゴリズムを応用した,デンドログラムデータに関するデータ解析手法とその理論についてTechnical Report(arXiv)に公表し,雑誌に投稿した.さらに,データ空間の距離を変換し,クラスタリングや判別分析に応用する新たな手法を提案し,arXivに公表した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
代数学を用いた統計的推測理論という研究目的の一つに関して,当初予定していたとおり,代数統計学の第一人者であるHenry Wynn (London School of Economics)との共同研究を行い,その成果に関して国際学会発表,論文発表を行い,高い評価をうけた. また,非可換代数と大規模ランダム行列を用いたカーネルグラム行列の統計的解析と応用についても,大規模ランダム行列の専門家であるNoureddine El Karoui(UC Berkeley)を国際学会に招待し,今後の共同研究について相談した. その他,関連する新しいトピックとして,Tree Spaceという木のグラフの集合に関する理論とアルゴリズムを応用した,デンドログラムデータに関するデータ解析手法とその理論についてテクニカル・レポートしてまとめた.また,データ空間の距離を変換し,クラスタリングや判別分析に応用する新たな手法を提案し同じくテクニカル・レポートしてまとめた. このように,予定していた1つの課題と新しい課題が順調に成果を出しており,もう一つの課題についても今後の研究の方向性が定まったため,研究課題全体としてはおおむね順調に進展している.
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今後の研究の推進方策 |
本年度,新しい課題として出てきたTree space上のデータの解析手法とその理論,さらにはその拡張としてデータ空間の距離空間と曲率を用いたデータ解析手法と理論について,さらに研究をすすめる.具体的には,これまで単語心内辞書のモデルとしてデンドログラム(木構造)を対象としてきたが,より一般的な形をもつモデルについて,そのデータ空間の距離空間の特徴,特に曲率に注目した統計的解析手法を提案する.さらに,これ以外の具体的な実データについても,データが幾何学的構造や,代数的に表現されるような周期構造を保つ場合には同様の手法が適用できることが期待されるため,その可能性を探る. 一方,カーネルグラム行列についても,元のデータ空間の距離と,カーネルによる変換に注目した解析を行い,それをグラム行列の近似法の改良に応用する.その際に,元のデータ空間の距離の推定,近似,変形が必要であり,上記の手法を応用できることが期待される.
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度予定していた共同研究者訪問のためのイギリス出張を短縮する必要がでたため,代わりに次年度の出張を増やすことになった.そのため次年度への繰越金が必要となった. 次年度は二回の国際学会と共同研究者との共同研究のための海外出張を予定しており,その旅費や必要な研究費に使用する予定である.
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