本研究の目標は代数学を用いた統計学の新しい理論と解析手法を提案することである.特に最終年度である本年は,代数統計の一分野としても注目されている,データ空間の曲率やCAT(k)特性に注目したデータ解析についての新しい手法の提案とその妥当性の理論評価について,より詳細な議論を行いその成果の公表を行った.また本研究のもう一つの研究対象であった大規模ランダム行列理論の応用として,生産管理,特にフローショップ型スケジューリングに関する問題に対して,パーコレーションの手法を導入する新しい解析手法を提案した.具体的には,統計物理や確率論で研究されているサイトパーコレーションの理論を用いてフローショップの総処理時間(メイクスパン)の漸近的な分布を評価した.特に,フォワード法,バックワード法のメイクスパン関数は漸近的に,shape functionとよばれる関数と一致し,ハイブリッド法とよばれるスケジューリング手法では,二つのshape functionを足し合わせたものとなった.本成果は国際会議で発表された.また,本科研費研究全体を通しての大きな成果の一つは,(1)1次,2次の漸近有効性をもつ推定量の代数的な特徴づけ,(2)その特徴づけを用いた,グレブナー基底を用いた代数計算による推定方程式の次数減少の実現,(3)次元減少後の推定方程式のホモトピー連続法での推定値の計算量削減についての結果をまとめて,論文,国際学会で発表したことである.この手法は,統計学的な有効さを保証しつつ,推定方程式の次数が抑えられ計算が容易な新しい推定量を作る.これは,最尤推定法などの既存の推定量の推定方程式の次数を計算機代数を用いて評価するといったこれまでの代数統計学のアプローチとは全く異なり,その新規性は論文査読者から高い評価を得た.
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