研究課題/領域番号 |
24700307
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
長友 克広 弘前大学, 医学(系)研究科(研究院), 研究員 (30542568)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | グルコース / 温度 / 脳保護作用 |
研究概要 |
本研究では、黒質網様部GABA作動性ニューロンの脳保護作用について調べるために、急性単離した黒質網様部GABA作動性ニューロンの自発発火頻度および膜電位を細胞内環境に影響を与えないグラミシジン穿孔パッチクランプ法によりモニターしながら、種々の細胞外グルコース濃度にて、灌流液の温度を37℃から低下させ、自発発火が停止する温度を解析することを第一目標としている。これを円滑に遂行するためには記録チャンバーにおける均一な流線の確保および維持、正確な温度コントロール、記録溶液中の正確な温度記録が必須となる。H24年度末までに、均一な流線と温度を確保するための記録チャンバーの作製および改良、マニュアルで行っていた温度の変更速度を実験毎に再現する工夫、極小超細熱電対からの記録溶液中の温度記録、全ての項目について達成した。また以前の電気生理実験系で成功していたグラミシジン穿孔パッチクランプ法は、新システムでは安定して成功することが出来なかったが、今回、グラミシジンの調整方法を確立し、新システムでもグラミシジン穿孔パッチクランプ法による記録が安定して行えるようになった。 また温度を生体シグナルに変換する分子である温度感受性Transient Receptor Potential(TRP)チャネルを初期標的分子として、候補分子となるmRNAの発現解析をリアルタイムRT-PCR法により、組織レベルおよび単一ニューロンレベルで行い、低温下で脳保護機能を発動する分子を同定することを第二目標としている。現在までのところ、単一ニューロンレベルで実施する以前の予備実験として、黒質網様部組織レベルでのmRNA発現解析を行い、興味深い結果が得られている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
作製したチャンバーは記録溶液の深さが約0.5mm、流速は1.5mL/minとなっている。大きさ 2mm x 6mm にカットしたカバーガラス上に細胞を単離し、記録チャンバー上にセットした。このガラス短冊の上流と下流に極小超細熱電対を1つずつ配置した。水温が室温よりも高温・低温状態になると記録領域前後において、1℃程度の温度差を呈するが基本的に一定の温度を確保することができるようになった。温度コントローラー付属の温度プローブが太さ1mm x 長さ4mmと大きく、チャンバーにセットすると水没せずに室温を拾ってしまい正確な温度が測定できなかった。このため、当初、温度コントローラーのキャリブレーション用に購入したデジタル温度計を記録用として用いるために出力をADコンバータへ入力し記録を行ったが、当該装置から5kHzのノイズが発生しており、ノイズフィルターなどの対策を講じたが正確な温度記録ができなかった。そこで教室所有の別のデジタル温度計を用いたところ、ノイズも無く正確な温度記録ができるようになった。 温度のコントロールについては、主に室温・流速・水深に影響を受けるが、記録直前に全ての影響を最小限にすることができるようになり、また現在使用中の温度コントローラーに外部入力を行い温度をコントロールできるようにし、マニュアルで行っていた温度の変更速度を記録毎に一定に再現できるようになった。 発現解析の予備試験において、黒質網様部組織全体における温度感受性TRPチャネルの遺伝子発現をリアルタイムPCR法により行ったところ、TRPV1(活性化温度域:42℃以上)以外の、TRPV2(52℃以上)、TRPV3(33℃以上)、TRPV4(27~42℃付近)、TRPM8(25℃以下)、TRPA1(17℃以下)を検出した。
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今後の研究の推進方策 |
記録チャンバーや温度コントローラーの調整が一通り終了し、グラミシジン穿孔パッチクランプ法により記録を取れるようになった。H25年度は、灌流液の細胞外グルコース濃度を10 mMから種々の細胞外グルコース濃度に変更し、37℃から温度を低下させて、自発発火と膜電位をモニターし、自発発火が停止する温度を決定する。本実験を行い、細胞外グルコース濃度と自発発火が停止する温度の相互関係を明らかにする。一連の実験の中で、温度を生体内環境温度である37℃に維持すると膜電位が不安定になり記録を断念することや、温度を下げて自発発火が停止するものの復温により発火復帰が観察できず、自発発火停止が温度によるものなのか、細胞自体が破綻したことによるのか判断つかないものが出てきている。これに関しては安定に記録できる限界温度や、復温による自発発火の復帰が可能となる低温状態での限界滞在時間を探る必要がある。 また記録開始時点と記録後において、ニューロンが細胞形状を維持できずに縮む様子が数回観察されている。考えられる原因として、記録電極接触による刺激や細胞膜吸引による刺激などあるが、電極先端のヒートポリッシュや吸引圧の調整を行い改善しなければならない。記録を行った細胞が縮んでしまうと質の高いmRNA採取は期待できないので、電気生理による記録とRNA採取を分けて行う必要があると考えている。 H24年度に行った黒質網様部組織レベルでのリアルタイムPCRの結果およびグルコース濃度を変更した自発発火停止温度に基づき、単一細胞で発現解析を行う。 mRNA発現解析の後、温度感受性TRPチャネルの阻害剤や特定TRPチャネルのアゴニストを用いて薬理実験を行う。温度低下により停止した黒質網様部GABA作動性ニューロンの自発発火が復帰できるかどうか、また温度低下によらず自発発火を停止することができるかどうか検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当無し
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