研究課題/領域番号 |
24700307
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研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
長友 克広 弘前大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (30542568)
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キーワード | 黒質網様部 / 温度 / グルコース |
研究概要 |
本研究では、急性単離した黒質網様部GABA作動性ニューロンの自発発火頻度および膜電位を細胞内環境に影響を与えないグラミシジン穿孔パッチクランプ法によりモニターしながら、種々の細胞外グルコース濃度にて、灌流液の温度を37℃から低下させ、自発発火が停止する温度を解析することを目標としており、温度による自発発火調節の分子実体を同定することを最終目標としている。 これまでに、チェンバー形状の最適化を行い、温度記録システムを刷新、また温度コントロールの再現性の確保、パッチクランプ用のグラミシジン調整方法を改良することで、記録チェンバーの均一な流線確保、正確な温度記録、正確な温度コントロール、安定したグラミシジン穿孔パッチクランプの確立を行った。また温度による自発発火調節の分子実体の候補分子スクリーニングを行い、ある程度の絞り込みを実施した。 24年度に予定していた実験が25年度にずれ込んでしまったが、ようやくきちんとしたシステムで自発発火解析に関する実験が行えるようになった。しかし安定に記録できる限界温度や、復温による自発発火の復帰が可能となる低温状態での限界滞在時間を調べる段階で、記録開始時点と記録後において、ニューロンの形状が縮んでしまうことが頻繁に観察された。グラミシジン穿孔パッチクランプ法を用いているので、基本的にはニューロンの細胞内環境に変動を来すことはないと考えられるが、ガラス電極の材質やガラス電極先端のヒートポリッシュや吸引圧の調整を再度行う必要がある。現在、黒質網様部GABA作動性ニューロンの同定を迅速に行うために、VGAT-Venusマウスを使用しており、記録中はなるべく顕微鏡の落射光量を落としているが、蛍光タンパクにより細胞内に何らかの影響が出ている可能性も考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
現在、本研究の途中で、温度やグルコースによる黒質網様部GABA作動性ニューロンの自発発火の調節にも重要であると考えられる新知見が得られたため、そちらの論文執筆を行っている。本研究は単離した状態のニューロンであるが、実際の脳内でどのような振る舞いを示すかを考える際に、新知見が必要不可欠になると考えられるものである。 灌流液の細胞外グルコース濃度を10 mMから種々の細胞外グルコース濃度に変更し、37℃から温度を低下させて、自発発火と膜電位をモニターし、自発発火が停止する温度を決定する実験を行っているが、記録途中で発火が停止し、記録続行不能となることや、記録前後で細胞が縮む様子が観察されるため、細胞外グルコース濃度と自発発火が停止する温度の相互関係を解析できる例数が得られていない。 また本課題とは異なる別の実験を行った際、黒質網様部GABA作動性ニューロンには発現していないと考えられる「ある受容体」が、サブポピュレーションとして2~3割程度発現していた(免疫染色法によるタンパクレベルでの確認n=33/145; Single-cell real time RT-PCR法によるmRNAレベルでの確認n=7/21)。温度の実験ではVGAT-Venus陽性ニューロンという分類のみで実験を行っているため、今後、解析の際に注意が必要であることが判明した。 以上、新知見に関する論文作成、実験に際するトラブルシューティング、解析する際に考慮すべき事象、これら3点から、本課題を「やや遅れている」とした。
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今後の研究の推進方策 |
現在までの達成度として、「やや遅れている」と自己評価したので、本課題の進度を加速させる必要がある。そのために以下の方法をとる必要があると考えられる。 特に律速となるのは単一細胞での遺伝子発現解析であることから、組織レベルの発現解析結果より、黒質網様部組織全体に発現していることが分かっている温度感受性TRPチャネル[TRPV1(活性化温度域:42℃以上)以外の、TRPV2(52℃以上)、TRPV3(33℃以上)、TRPV4(27~42℃付近)、TRPM8(25℃以下)、TRPA1(17℃以下)]に関して、量的に多く検出された分子について免疫染色法により、タンパクレベルでの発現プロファイルを作成する必要があると考えられる。 電気生理実験に関しては、効率を上げるために、ある程度条件を絞る必要があると考えられる。例えば、低温状態にして自発発火が停止した場合、復温して自発発火が復帰するかどうかは別途検討課題とし、発火停止温度のみを検討するなどである。またTRPチャネルの発現プロファイルから得られた結果により、薬理実験をある程度限定して行うことができると考えられる。 また【現在までの達成度】に記述した黒質網様部GABA作動性ニューロンの2~3割程度に存在するサブポピュレーションについては、温度実験解析後に得られる結果に照らし考察する必要がある。
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次年度の研究費の使用計画 |
従来の研究を行っていたところ、本研究課題にも重要であると考えられる新しい知見が見つかり、その確認実験を行っていたために、想定していた予定よりも本課題の進度が遅れてしまった。現在、論文作成を行っている段階である。 繰り越した研究費は、論文作成に伴う英文校閲費と雑誌への論文投稿費に充てるとともに、Revise実験に必要となる試薬類の購入費に充てる。
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