研究課題/領域番号 |
24700309
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
佐藤 耕世 東北大学, 生命科学研究科, 助教(研究特任) (40451611)
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キーワード | 脳 / 神経 / 性差 / ショウジョウバエ / 性行動 / クロマチン / ユビキチン化 / 転写因子 |
研究概要 |
本研究は、ショウジョウバエの神経特異的な雄化因子Fruitless (Fru)に着目し、性行動を規定するニューロンの一群が性差を発達させる機構を分子および細胞レベルで解明することを目的としている。具体的には、1. 転写因子と推定されるFruの補因子や転写の標的遺伝子の同定および性差形成における機能の解析を通して、脳神経系を性分化させる遺伝的なフレームワークを解明する。また、2. それらの働きによって雄あるいは雌の発生運命を獲得した脳細胞がその周囲にある脳細胞と性特異的なシナプスを形成するための細胞間相互作用を解明することを目指している。 1. Fruの転写補因子として前年度までに同定したLongitudinals lacking(Lola)に着目し、性差形成における機能を解析した。lolaは選択的スプライシングによって構造の異なるアイソフォームを多数産生し、様々な発生段階・組織において多面的な機能を持つとされる遺伝子である。そのうちのアイソフォームの一つが脳神経系の性分化に与ることを示す結果を得た。多様なアイソフォームを産生するlolaがどのように脳神経系の性分化を制御するのか、また、Fru-Lola複合体がどの遺伝子を転写制御の標的とするのかについては次年度の課題である。 2. Fruを産生するニューロンの一群のうち、食道下神経節(味覚に関する神経が集まる脳の部位)に性特異的な神経突起を形成する神経クラスターを主たる解析の対象として、細胞間相互作用の解明を目指した。神経クラスターの一つを性転換させ、その影響下で隣接する神経クラスターが性転換しうるかを検討するために、前者をGal4/UASシステムの制御下で性転換しつつ、後者をlexA/lexAopシステムの制御下で性特異的な神経突起の発達を観察する。そのために今年度は遺伝学的ツールとしてlexAop-FRT-stop-FRT-myr-RFPをもつショウジョウバエ系統を作製した。次年度はこのツールを用いて細胞間の相互作用を解析する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
前述のように、lolaは選択的スプライシングによって構造の異なるアイソフォームを多数産生し、様々な発生段階・組織において多面的な機能を持つとされる遺伝子である。脳神経系の性分化に与るとして本研究が同定したアイソフォームについて、その発現様式を雌雄の脳神経系において比較したところ、驚いたことに雌と雄で発現の様式が異なっていた。このアイソフォームは雌の脳神経系においてユビキチン・プロテオソーム経路による切断を受ける結果、N末の構造を欠く短い産物を脳神経系において雌だけに産生する。一方、雄ではこのアイソフォームは切断を受けず、全長を保持していることが示唆された。この切断はFruの存在下において抑制されることから、FruはLolaと結合して転写を制御するだけでなく、Lolaをタンパク質の切断から守り安定化させる機能を持つものと考えられる。この発見は、Fruが転写因子だとするこれまでの定説に一石を投じうる。また、一般的にユビキチン・プロテオソーム経路は不要なタンパク質の分解と除去に関与するというのが定説であり、機能的なタンパク質を切断によって産生する例は、Cubitus interruptusの場合を除いて未だ知られていない。本研究が二例目となる可能性がある。その詳細な制御機構や、切断によって雌の脳神経系に生じる短いアイソフォームの機能については次年度に解析する必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
1.脳神経系の性分化における多様なLolaアイソフォームの役割の解明。脳神経系において、RNAiを用いたノックダウン、およびCrispr/Cas9を用いたノックアウトによって、Lolaの個々のアイソフォームを特異的に機能阻害し、性差形成における役割を解明してゆく。また、個々のアイソフォームを特異的に認識する抗体を作製中なので、個々のアイソフォームがどの脳細胞に発現するかを調べることが可能になる。これらのツールを用いて、脳神経系の性差形成におけるLolaの多様なアイソフォームの役割を解明してゆく。 2.Fru-Lola転写因子複合体の標的遺伝子の解明。前年度までに行った遺伝子スクリーニングによって有力な候補となる遺伝子を同定しているので、この遺伝子がFru-Lola複合体の標的となる可能性をレポーターアッセイによって解明する。転写因子の結合配列についてもゲルシフトアッセイによって解明する。 3. Lolaを切断から守るFruの機能ドメインの解明。部分的に構造を欠く改変型のFruタンパク質をショウジョウバエの脳神経系に発現させ、Lolaを切断から守るために必要な部位を解明する。 4. 切断によって生じるLolaアイソフォームの役割。切断に寄って生じる短いLolaアイソフォームをN末端解析し、切断部位を解明する。続いて、切断後のアイソフォームをショウジョウバエの脳神経系に発現させ、性差形成における役割を解明する。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度使用額は、今年度の研究を効率的に推進したことに伴い発生した未使用額であり、平成26年度請求額とあわせ、平成26年度の研究遂行に使用する予定である。 「12. 今後の研究の推進方策」に記載した実験を遂行するために使用する。具体的には、Crispr/Cas9によるlola遺伝子のノックアウト系統をはじめとした諸々のショウジョウバエ系統の作製、anti-Lola抗体の作製、レポーターアッセイおよびゲルシフトアッセイ等に必要な試薬およびキットの購入に用いる予定である。
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