本研究は、キイロショウジョウバエの神経特異的な雄決定タンパク質Fruが、その存在によって性行動を制御するニューロンの一群に性差を作り出す仕組みを解明することを目的とした。昨年度までに、Fruの転写コファクターとしてLola29Mを特定していた。Lola29MもまたFruと同様にBTB-Zn-finger型の転写因子ファミリーに属するタンパク質である。Lola29Mは、タンパク質切断によってN末端側の配列を欠く短いフォーム(Lola29F)を雌の脳神経系に特異的に産生していた。今年度は、(1) Lola29Fがどのような役割を持つのか(以下、1と2)、(2) Fruの存在がLola29Fの産生を阻害する仕組みがどのようなものか(以下3)を解析した。 1.Lola29FがN末端側のBTBドメインを持たないことを、アミノ酸配列の段階的除去実験などによって明らかにした。しかし、Lola29FのN末端アミノ酸の決定には至っていないため、N末端側300アミノ酸を欠く産物を暫定的にLola29F-likeと見なした。また、タンパク質切断に耐性をもつ変異型Lola29Mを、アミノ酸置換によって作成した。 2.上記において作成した、Lola29F-likeおよび切断耐性型Lola29Mをキイロショウジョウバエのfru発現ニューロンに発現させ、ニューロンの解剖学的性差および性行動を解析した。その結果、雌が持つLola29FがLola29Mのドミナントネガティブ型として働いており、それによってニューロンの雄化を阻止することを示唆する結果を得た。 3. Lola29MのBTBドメイン内に、デグロンとして機能するリジン残基を見出した。Lola29MとFruはこのドメインを介して結合することから、Fru-Lola29Mの結合がデグロンを隠すという仕組みが、Lola29Mを切断から守るものと推察された。
|