研究課題/領域番号 |
24700310
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
山崎 大介 東京大学, 分子細胞生物学研究所, 助教 (80588377)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 記憶学習 / ショウジョウバエ / CREB / キノコ体 |
研究概要 |
内在性のCREB活性をモニターするためのCREBレポーターを持つトランスジェニックフライの作製に既に成功していたので、これを基に本年度はCREBレポーターによってラベルされるCREB活性化細胞において遺伝子発現させる実験系を構築し、それらの細胞の機能解析を実施した。CREB活性化細胞においてCREB活性を阻害すると忌避長期記憶が阻害されたことから、これらの細胞におけるCREB活性が長期記憶に必要であることが解った。また、これらの細胞の神経活動を阻害する実験から、CREB活性化細胞のうちキノコ体γ細胞の出力は記憶の維持と読み出しに、キノコ体以外の細胞は忌避記憶の維持に必要であることも解った。 キノコ体においてCREB活性化細胞の神経活動を亢進したハエでは電気ショックを受けたときと類似した行動が見られ、匂いと連合させると記憶形成ができることが解った。エンハンサートラップ系統を使ってキノコ体の神経活動を活性化してもこのような異常行動は見られず、匂いとの連合学習も成立しなかったことから、キノコ体の細胞のうち、CREB活性化細胞が忌避情報の伝達に優位性を持つことが示唆された。また、CREB活性化細胞の出力を阻害しても、報酬系長期記憶の読み出しは阻害されなかったことから、CREB活性は忌避情報を伝達する細胞の決定に重要な働きを持つ可能性が示唆された。 キノコ体は匂いの情報と忌避情報が連合する部位であるが、キノコ体のどの細胞で情報の連合が起こるかは解っていない。特にドーパミンニューロンから忌避情報を受け取るキノコ体細胞についてはよくわかっていないが、本年度の研究によってその突破口を開く可能性が出てきた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初期のCREBレポーターではCRE配列の下流に分解配列を付与したGFPを導入し、長期記憶形成依存的にCREBが活性化される細胞をGFP蛍光を指標に同定するというものであった。しかしCRE配列の下流にGAL4遺伝子やGeneSwitch遺伝子を導入して既存のトランスジーンを発現させるシステムを構築すると、トランスジーンの分解速度が遅く、記憶形成依存的に反応する細胞だけでトランスジーンを発現させることが困難となってしまった。そこで、記憶形成の有無にかかわらず、全てのCREB活性化細胞の中から記憶形成に関与する細胞の同定に目的を切り替えた。特に記憶中枢であるキノコ体の各細胞集団の機能の同定に注視し、その結果CREB活性化細胞が最も顕著であるγ細胞が忌避情報の伝達に関与している可能性を見いだし、新たな局面をむかえるに至った。
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今後の研究の推進方策 |
成虫個体のCREB活性化細胞でのみ遺伝子発現をする実験系も既に構築済みである。今後はこれを利用して成虫脳のどの領域さらにはキノコ体の中のどの細胞集団でのCREBの機能が長期記憶あるいは忌避情報の伝達に必要であるか、忌避記憶・報酬記憶の両パラダイムを用いて調べていく。
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次年度の研究費の使用計画 |
CREB活性化細胞をさらに細分化して機能解析を行うため、次年度の研究費は主に取らんトランスジェニック系統の作製費用に充てる。
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