平成24年度に作製したCREBレポータートランスジェニックフライを用いて、レポーターでラベルされる細胞群の記憶学習に機能解析を行った。ショウジョウバエの記憶中枢であるキノコ体は解剖学的にα/β、α'/β'、γ細胞に分類されるが、レポーター陽性細胞はγ細胞が大半を占めるため、レポーター陽性γ細胞に主眼をおいて解析した。レポーター陽性γ細胞の出力をshibire遺伝子の発現によって温度依存的に阻害したとき、どの記憶のどのステップでこれらの細胞の機能が必要かを調べたところ、短期記憶・長期記憶の全てのステップで必要不可欠であることを見いだした。 しかしながら、これまでの知見ではγ細胞は短期記憶の読み出しに寄与するのみであり、本研究データと矛盾が生じる。そこで私はCREBレポーターには既存のエンハンサートラップ系統とは異なる特有のγ細胞ラベリングのパターンが存在するのではないかと考えた。そこでレポーターによるshibire遺伝子の発現パターンを既存のγ細胞のエンハンサートラップ系統を共存させて乱したところ、記憶障害から回復することを発見した。つまり、CREBレポーターと既存のエンハンサートラップ系統はほぼ共通のγ細胞をラベルするものの、CREBレポーター特有のラベリングパターンが存在し、これがγ細胞に特有の機能を与えうることが明らかになった。このことは、CREB活性が記憶のコーディングの決定因子であるというマウスの先行研究の結果とも一致するとともに、CREBが活性化される細胞は長期記憶だけでなく、短期記憶においても重要な役割を担うという意義深い知見を与える。
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