研究概要 |
振動的神経活動が、異なる部位間の活動伝播にいかに関わり、どのような機能的意義を果たしているかに着目して、モデリング研究を進めている。シナプス前側の細胞から後側の細胞に活動がいかに伝わるかを考える上では、シナプス入力が後細胞に及ぼす効果(シナプス後電位)が、回数を重ねるにつれて促進ないし減弱するというシナプス短期可塑性が極めて重要となる。大脳皮質から脊髄への活動伝播について調べるため、他研究者による過去の研究(Jackson et al., 2006, J Physiol 573:107)で報告されていた生理学実験結果(論文の図から取得したもの)に基づいて、シナプス短期可塑性の数理モデル(Tsodyks & H. Markram, 1997, Proc Natl Acad Sci U S A 94:719およびMongillo et al., 2008, Science 319:1543によるもの)のパラメータ推定を行った。そして、大脳皮質錐体細胞の詳細なモデル(ただし運動野ではなく視覚野の細胞に基づいて過去に作られ報告されていたもの)のシミュレーション結果から得られた活動電位発生の時系列を用いてモデル解析を行い、脊髄のシナプス後細胞側に起こる応答が、前細胞の発火の時間パターン(を規定する前細胞への入力)によっていかに変わり得るかを調べた。その結果、シナプス短期可塑性の特性により、前細胞の尖端樹状突起に加わる抑制性入力がβ周波数帯で集団的に振動している場合には、抑制性入力がそれ以外の周波数帯で振動するか非周期的な場合に比べて、前細胞の活動電位一つあたりのシナプス後電位の平均が小さくなることなどが示唆された。そして、そうした細胞レベルで起こり得る現象が、運動開始に際して大脳皮質と筋肉におけるcoherentなβ律動が減弱するという既知の知見といかに関わりうるかを考察した。
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