研究課題/領域番号 |
24700319
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
本多 敦子 新潟大学, 研究推進機構, 研究員 (40467072)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 神経発生 / 神経極性 / 脳形成 / 4回膜貫通型タンパク質 / ストレス / プロテオミクス / エピジェネティクス / 遺伝子導入マウス |
研究概要 |
1, M6a発現と神経発生の関係を明らかにするため、海馬ならびに大脳皮質の培養神経細胞において、M6aに対するsiRNAをエレクトロポレーションにより導入し、M6aの発現を急性にノックダウンした神経細胞を作製、M6a発現抑制の神経発生における作用を解析した。 これまでの我々が明らかにしてきた、M6aの「神経極性決定」や「突起伸長作用」における役割に焦点をおいて、M6aの発現抑制による軸索-樹状突起形成への影響を、免疫染色や、Green Fluorescent Protein (GFP)発現ベクターとsiRNA との共導入を用いたイメージング法により解析した。培養神経細胞を用いることにより細胞外環境を人為的に変化させ、M6aの発現が、ラミニン基質依存的な神経極性決定や突起伸長において重要な役割を持つ事を明らかにし、海馬-大脳皮質のいずれの脳領域においてもM6aの発現が同様な作用を持つ事を示した。さらにM6aをノックダウンした神経細胞の免疫染色により、M6aの発現抑制が、既に相互作用分子として同定しているM6BP、Rap2を介して、神経極性決定因子を制御する事を明らかにした。 2, 生体マウス脳におけるM6a発現量と神経回路形成の関係を明らかにするため、M6aに対するshRNAを、マウス胎仔脳に子宮内エレクトロポレーションにより導入し、M6aの発現を急性にノックダウンしたマウスの作製を開始した。 同手法にてGFPをコードするDNA配列を含むプラスミドを導入することで、GFP発現による脳内の神経細胞の可視化に成功している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度は、M6aの発現と神経発達の関係を明らかにすることを目指しており、そのために申請者は分散培養した脳神経細胞におけるノックダウン法を用いて、M6aの発現抑制が、ラミニン依存的神経極性決定に重要な役割を持つことを明らかにした。さらに申請者は、M6a発現の作用機序を明らかにするため、M6aと相互作用する分子を解析し、M6a-M6BP-Rap2という複合体を同定。この複合体が、ラミニン依存的神経極性決定に関係する最も重要であり、極性形成時に特定の細胞外シグナルに対応していち早く形成され、既知の極性形成分子群の集積を誘導することを証明した。この知見は、M6aにより形成されるタンパク質複合体が、今まで多数見出されてきた極性関連分子とは全く別個な機構で働くことを見出したもので、脳神経発生過程におけるM6a発現の重要性を強く示唆しており、本年度目的としても充分に達成されており、学術的にも非常に高い評価を得ることができると考える。 また申請者らは、脳発生過程における上記M6a発現の重要性を証明するため、脳内におけるM6aノックダウンマウスの作成に着手している。これまでに、M6a結合タンパク質M6BPノックアウトマウスにおける子宮内エレクトロポレーションによるGFP発現プラスミド導入により、脳内における神経極性形成の異常を観察するなど、M6aノックダウンマウスにおける神経極性形成への影響を強く指示する知見も得ており、次年度の実験計画内容に進展できるものと評価している。
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今後の研究の推進方策 |
1、初年度に培養細胞において明らかにした、M6aによるラミニン依存的神経極性決定の分子制御機構をもとに、in vivoでのM6aの発現抑制による脳形成への影響を明らかにする。 初年度の培養神経細胞を用いた研究において、M6aの発現抑制によりラミニン依存的神経極性決定が阻害されることを証明したが、in vivoでの脳形成におけるM6aの生理的役割は明らかになっていない。初年度の研究より、海馬-大脳皮質いずれの脳領域の神経細胞においても、M6aの発現が神経極性決定に同様な役割を持つことが示唆されていることから、これまでに最も脳内での神経発生が解析されているマウス胎児大脳皮質においてM6aをノックダウンし、このマウスの表現型解析からM6a発現抑制の脳形成への作用を明らかにする。 2、神経細胞におけるM6aのエピジェネテックな発現抑制を同定し、神経発生におけるその作用を解明する。 M6aは、ストレスにより発現が抑制され、プロモーター領域へのヒストンメチル化酵素の結合も報告されているため、M6a発現のエピジェネティクス制御が予想されるが、その詳細は明らかでない。そこで神経細胞において人為的にエピジェネティックな転写抑制を誘導し、M6a発現量への作用を解析することで、神経細胞内におけるM6a発現のエピジェネティクス制御機構を明らかにする。また、その際の神経極性決定過程を初年度のsiRNAを用いたM6aノックダウンの結果と比較して解析することにより、M6aのエピジェネティクス抑制による神経発生への作用を明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度において、科学研究費補助金による1~4の実験を計画している。 1、子宮内エレクトロポレーション法を用いたマウス胎仔脳へのshRNAの導入による、M6aノックダウンマウスの作成。GFP 発現ベクターの同時導入をおこない、脳内の神経細胞をGFP発現により可視化する。導入の胎生時期や領域を変化させた子宮内エレクトロポレーションを行い、時期-領域特異的にM6a発現を抑制する。 2、M6aノックダウンマウスの表現型解析。ノックダウンマウスの包埋切片による免疫組織解析や、スライス脳におけるGFP発現神経細胞のイメージング解析、生後マウスにおける行動解析により、in vivoでのM6a発現抑制による、脳形成過程への作用を明らかにする。 3、培養神経細胞にて、転写抑制性のエピジェネティクスを誘導し、M6a発現への作用をin vitroで解析する。M6aへの作用や精神疾患への関与が報告されている転写抑制性ヒストンメチル化酵素や、ヒストン脱アセチル化酵素をコードするcDNAプラスミドベクターを、エレクトロポレーションにより培養神経細胞に導入し、人為的にエピジェネティック転写抑制を誘導する。M6a発現への作用をウエスタンブロッティング、またはRT-PCR解析により示す。 4、エピジェネティクスによるM6a発現制御の神経発達への作用を検証する。3においてM6a発現がエピジェネティックに制御された神経細胞における、神経発達を形態学的に解析し、M6aのエピジェネティクス制御による神経発達への作用を示す。M6a発現の寄与を検証するため、3におけるエピジェネティック転写抑制の誘導と共に、M6a をコードするプラスミドベクターの導入を行い、エピジェネティクスの神経発達における作用が、M6aの過剰発現により回避されるかを調べる。
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