本研究は、ストレスに伴う、糖タンパク質M6aのエピジェネティクスな発現低下と、脳形成異常との関係を明らかにし、脳形成に関与するエピジェネティクスの標的としてのM6aの役割を解明するものである。我々は、分子レベルの解析より、M6aは神経軸索成長円錐において、極性決定に関与する分子群と蛋白質複合体を形成することを明らかにした。海馬・大脳皮質神経細胞を用いた細胞レベルの解析では、RNAiによるM6aの発現抑制が、ラミニン基質上における神経極性決定を阻害し、軸索形成を抑制した。これらの結果は、M6aの発現低下が、脳形成に作用する可能性を示唆していた。本年度の研究では、子宮内エレクトロポレーション法を用いて、マウス胎仔脳へのshRNA導入を行い、脳内においてM6a発現抑制した際の脳形成への影響を調べた。これまでに脳内での神経極性形成過程について解析されている大脳皮質での、shRNAによるM6a発現抑制の作用を解析したところ、導入したM6aノックダウン細胞における軸索伸長の遅延が確認された。更に、発生過程の早い段階で解析したところ、大脳皮質中間帯において、神経細胞の多極性細胞から二極性細胞への極性変化が遅延していることが明らかになった。M6aは、発生過程の大脳皮質において中間帯に多く発現しており、M6aの発現が大脳皮質中間帯における極性決定過程に重要な役割を持つ事が分かった。細胞レベルにおける結果は、M6aが大脳皮質だけでなく、海馬においても同様に極性決定に関与することを示しており、本研究成果により、ストレス等によるM6aのエピジェネティクスな発現低下が、脳形成過程において神経回路決定に不可欠な神経極性決定を抑制・遅延させることが示唆された。
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