研究課題/領域番号 |
24700321
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
阿部 学 新潟大学, 脳研究所, 准教授 (10334674)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 海馬 / コンディショナルジーンターゲティング法 / 記憶 |
研究概要 |
海馬は記憶学習に不可欠な脳部位であるが、海馬CA2についてはその機能がほとんど未知の領域であった。本研究においては、Cre-loxP組換え系およびテトラサイクリン(Tc)誘導系を利用し、CA2選択的遺伝子改変マウスを作製、解析することでCA2の神経生理学的特性と、記憶学習を担う神経回路に果たす役割を解明する。 計画(1) CA2のシナプス伝達の阻害や神経細胞死を誘導できるマウスを作製し解析を行う。成果:ドライバーマウスであるRgs14-iCreノックイン(KI)マウスを作製しCreの発現様式を検証した結果、CA2神経細胞に加え、皮質、視床、歯状回等にも活性が認められた。Cacng5-rtTA,tTS KIマウスも樹立し、レポーター系統、FLPドライバー系統との交配を開始した。さらにRgs14-tTA KIマウスもキメラを作製することができた。また、ジフテリア毒素受容体発現マウスについては作製済みであり、破傷風毒素軽鎖発現マウスについては理研バイオリソースに供託されている系統の搬入準備を進めている。 計画(2) シナプス伝達、可塑性に重要な分子を標的としてCA2選択的ノックアウト(KO)マウスを作製する。成果:Rgs14-iCre KIマウスを用いてNMDA受容体GluN1サブユニットのCA2選択的KOマウスを作製した。しかし上述の通り、このKIマウスはCreの発現領域選択性が低かったため、解析については保留した。現在は、より選択性の高いS100b-iCre KIマウスを用い、GluN1 KOマウスを作製中である。 計画(3) ウイルスベクター等を用いてトレーサー物質をCre活性またはTc誘導によりCA2に限局して発現させることで、CA2を介する神経回路網を可視化して明確にする。成果:より高い発現領域選択性を持つドライバーマウスを樹立した。現在その系統を用いる実験を立案中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、シナプス伝達、可塑性を担う分子を主な標的とした海馬CA2選択的遺伝子改変マウスを作製、解析することでCA2の神経生理学的特性と、記憶学習を担う神経回路に果たす役割を解明することである。 この目的を達成するため、計画(1)においては、Cre活性およびTc誘導によりCA2領域のシナプス伝達を阻害する破傷風毒素軽鎖や細胞死の誘導するジフテリア毒素受容体を発現するマウスを作製し、電気生理学的解析、行動学的解析を行うことで、CA2神経細胞の神経生理学的特性や、記憶学習及び社会性行動における役割を明らかにすることを目指した。本研究に用いるマウスのうち、Rgs14-iCre KIマウスは予想以上にCre発現領域選択性が低かったためそのままドライバーマウスとしては使用しなかったが、その他のドライバー系統の作製は極めて順調である。これらの系統と交配させるジフテリア毒素受容体発現マウスは作製済み、破傷風毒素軽鎖発現マウスは入手可能であり、近々にCA2選択的遺伝子改変マウスの作製を可能とした。 計画(2)においても、より発現領域選択性の高いS100b-iCre KIマウスを作製したことで、CA2選択的GluN1 KOマウスを作製を可能とした。 計画(3)においては上記のS100b-iCre KIマウスに加え、数系統のドライバーマウスを作製したことで、ウイルスベクター等を用いて順行性及び逆行性トレーサー物質(小麦胚芽レクチン及び破傷風毒素c断片)をCre活性またはTc誘導によりCA2に限局して発現させることを可能とした。 以上のことから、研究は概ね順調に進展していると評価する。
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今後の研究の推進方策 |
計画(1)~(3)から得られた結果をさらに発展させ、CA2の神経生理学的特性と記憶学習の神経回路基盤を明らかにする。 計画(1)(2)で作製されたマウスを用いて、CA2領域の機能的役割を明確にする解析を行う。具体的には、記憶の獲得、想起、記銘におけるCA2の機能や、DG, CA3の担うパターンセパレーション、パターンコンプリーションへの影響を検証する行動学的解析を中心に行う。一方で、さらに関連分子のKOマウスを作製し、解析を行う。特にシナプス可塑性に重要なリン酸化酵素や脱リン酸化酵素を標的とする予定である。 計画(3)ではウイルスベクター等を用いてトレーサー物質をCre活性またはTc誘導によりCA2領域に限局して発現させることで、CA2を介する神経回路網を可視化して明確にする。明らかとなったCA2と連絡する神経細胞のコンディショナル遺伝子改変マウスの作製を試みる。主に破傷風毒素軽鎖発現マウスを用いて、CA2との神経伝達を遮断することで変化する表現型を行動学的解析により検索する。特にCA2へ投射していると考えられる乳頭体上核を標的として、Cre発現またはrtTA, tTS発現ウイルスベクターのインジェクションにより神経細胞死誘導またはシナプス伝達遮断実験を先行して、海馬のシータ波および空間学習能力への影響を評価する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
計画(3)の、ウィルスベクターについては当該年度に作製しなかったため、次年度に使用する研究費にて作製を行う。次年度に請求する研究費については当初の計画通り主に遺伝子改変マウスの作製、繁殖、解析に使用する。
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