本研究では抑制性神経伝達の変化に着目し、代償的な感覚機能の向上が長期的に維持されるメカニズムの解明を目的としている。 これまでに視覚機能の剥奪後2日目において、体性感覚野(バレル皮質)の4層から2/3層で形成される興奮性伝達(大脳皮質の縦方向の神経伝達)が強化され、剥奪後7日目において興奮性伝達の強化は見られなくなるが、 バレル皮質2/3層-2/3層間の側方向への抑制性伝達(側方抑制)が強化されるという事を明らかになり、視覚剥奪初期において強化された4層-2/3層間の興奮性伝達は、2/3層の興奮性の錐体細胞だけでなく、抑制性の介在神経細胞への入力においても強化され、その入力により活性化され側方抑制が強化されているということも明らかにした。 25年度は2/3層-2/3層間の側方向への抑制性伝達の強化におけるセロトニンシグナルの役割について注目した。既に申請者が報告している論文において視覚機能の剥奪後2日目にバレル皮質でのセロトニン分泌量が上昇し、シナプスにおけるAMPA受容体の量を増加させ興奮性伝達を強化していることがわかっている。このことからセロトニンが抑制性の介在神経細胞にも作用し抑制性伝達も強化しているのではないかと仮説をたて、それについて検証した。 視覚機能の剥奪後にセロトニン2A受容体の拮抗薬を投与することにより剥奪後2日目においてバレル皮質2/3層-2/3層間の側方向への抑制性伝達の強化が見られなかった。さらに剥奪後7日目においても側方抑制の強化は見られなかった。このことから視覚機能の剥奪後2日目においてセロトニンの分泌が上昇し、2/3層-2/3層間の側方向への抑制性伝達が強化されてその後も長期的に維持されているということが明らかになった。
|