神経幹細胞を維持するMusashi1(Msi1)の転写制御を解析するため、これまでに我々がin vitroにおいて示したMsi1の転写制御領域である、第6イントロンエンハンサー(6IE)のレポーター遺伝子を導入したトランスジェニックマウスを作製し、発現解析を行った。このレポーター遺伝子の発現パターンは、胎生脳や成体脳においてMsi1を発現する神経幹細胞(NSC)と極めて局在が一致したため、in vivoにおいても6IEがMsi1を制御するゲノム領域であると考えられた。 次に我々は、6EIにおける178bpの転写責任領域を同定し、この領域におけるRfx結合サイトが6IEの転写活性に重要であることをレポーターアッセイにより明らかにした。6IEにはタンデムなRfx結合サイトが存在し、両サイトが必須であるため、二量体で転写活性を行っていると思われる。どのRfx遺伝子がNSCに発現しているかを明らかにするため、FACSで分離した6IEレポーター陽性NSCにおいて発現解析を行ったところ、Rfx4が最もNSC特異的に高レベルで発現していた。このためRfx4抗体を作製し、発現解析をおこなったところ、Msi1陽性の放射状グリアに特異的な発現が見られた。さらにChIP-PCR法を用いて、Rfx4がゲノム上の6IE領域に結合することを示した。In Utero Electroporation法を用いて、Rfx4を胎生脳の脳室下帯に強制発現させると、Msi1の異所的な発現上昇が見られ、顕著にNSCの分化が抑制されたことから、Rfx4がMsi1の転写制御に関与すると共に、NSCを維持していると考えられる。本研究による実績は、NSCの未分化性を制御する新たな転写因子を同定したことから重要であると考えられ、今後、これまでに報告されている、Rfxが制御する繊毛形成といかなる関与があるのか大変興味深い。
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