現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の必須要素として、神経結合部(シナプス)を超えて目的分子の発現を制御するシステムが必要となる。当初WGA-CREおよびTTC-CREを用いるシステムを、先行論文(Gradinaru et al., Cell, 2010,v141,p154)の方法とともに、さらに様々な改良を加えて検証したが、先行論文が示した結果を再現できなかった。そこで、別の方法として最近発表された(Beier et al., PNAS, v108,p15414, erratum PNAS, v109,p9219)、VSVという種のウイルスの組み換えウイルスを用いる方法を採用することとした。本方法は、多少システムが複雑であるが、より確実に目的遺伝子を、対象となる神経細胞に一回だけシナプス結合をまたいで輸送できるという大きな利点がある。申請者は、組み換えVSVの作成で世界的に有名な、東京大学の河岡義裕教授に協力を得ることに成功し、本研究において組み換えVSVを利用するための技術移管を行っている。 H24年度に、筑波大学へ移動となり、新しい研究室のセットアップのために時間を要しているが、セットアップが完了次第テスト用のVSVをマウス脳内に摂取することで、上記システムの実行可能性を検証する。
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今後の研究の推進方策 |
H24年2月より、筑波大学の国際統合睡眠医科学研究機構に異動し、現在も申請した研究を完遂すべく、研究課題を継続して行っている。 海馬にて、記憶を貯蔵する神経回路を遺伝学的に標識する方法として、最近c-fos-tTAマウスを使う方法が報告された(Liu et al.,Nature,2012,vol484,p381)。この方法では、申請者が当初計画していたc-fos promoterを用いて、活性化した神経をマーキングする、という原理は同じで有り、しかもマウスが市販されている。そこで、申請者は、新しいマウスを作製するという当初の予定を変更し、Liuらが報告した方法で、記憶を貯蔵する海馬の神経細胞を遺伝学的に標識する方法に変更する。 本年度は、前記の通り、VSVベクターを用いた、経シナプス性Cre酵素の発現システムの導入を確立する。既に河岡教授を始め、国内外の研究者よりVSV作製のためのパッケージング細胞やプラスミドを入手している。これらの実験材料を用い、まずはCreを発現するVSVベクターが、実際に経シナプス移行をするかを検証する。その後、ASLV/A/TVA-Rを使ったシステムで実際に、記憶を貯蔵する神経回路をターゲットに感染実験を行う。 本研究は、PTSDなどのヒト疾患に応用することで、社会的に重要な意義を与えることができる。現在、PTSD研究の先駆者である東京農業大学の喜田聡教授、国立精神・神経センター精神保健研究所室長の中島聡美博士に協力を得、本研究の精神科領域への応用可能性を模索中である。
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