研究課題/領域番号 |
24700342
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
樺山 実幸 独立行政法人理化学研究所, 行動発達障害研究チーム, 研究員 (70415115)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | ユビキチンリガーゼ / モノアミン / 情動行動 |
研究概要 |
Rinesによるモノアミン関連蛋白質の分解機序とそれに伴うモノアミン動態の制御を解明するため、脳各部位におけるモノアミン動態を測定した。その結果、Rines変異マウスのストレス負荷時および通常状態でのモノアミン動態の変動が、野生型と異なることを発見した。このことは、Rines変異マウスのストレスに対する情動反応行動異常が、モノアミン動態の変化によって説明できる可能性が高いことを示した。 さらに、Rinesの情動行動におけるモノアミン関連阻害剤に対する感受性が野生型と異なることを見い出だし、Rinesによるモノアミン動態制御機構が、情動行動の発現に関連していることを証明した。モノアミン関連阻害薬は、うつ病、ストレスおよび不安障害などの患者にも使用されているため、この発見は情動障害の創薬において大きな役割を持つと考えられる。 加えて、Rines変異マウスが、攻撃性の低下や、他マウスとの親和性の亢進などの社会性行動変化を示すことを発見した。ヒトにおいても、セロトニン等のモノアミン関連蛋白質の変動が、攻撃性などの反社会的行動に影響すると提唱されているため、この成果は、社会性行動障害の分子発症機構の解明と創薬にも貢献したと思われる。 さらにRines変異マウスの脳部位において、モノアミン関連蛋白質量とユビキチン化状態を観察した。この結果、Rines変異マウスにおいて、モノアミン関連蛋白質のユビキチン化状態が有意に減少し、非ユビキチン化蛋白質量は増加することを発見した。これにより、Rinesが脳において、ユビキチンリガーゼとしてモノアミン関連蛋白質のユビキチン化と分解を促進することを示した。 以上により、本年度の研究成果は、Rinesによるモノアミン関連蛋白質分解機構の、情動および社会性行動発現への重要性を示し、学術的および創薬に向けての貢献をしたと思われる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Rines変異マウスの、ストレス負荷有無でのモノアミン動態の変動が、野生型と異なることを発見したことにより、Rines変異マウスにおける、新規環境に対する不安様行動や情動記憶の低下などのストレス反応性の低下が、モノアミン動態の変化によって説明できるという成果を見い出だした。さらに、Rinesの情動行動におけるモノアミン関連阻害剤に対する感受性が野生型と異なることを発見したことで、Rinesによるモノアミン制御機構が、情動行動の発現に関連していることを証明した。この成果により、Rinesが情動障害の新たな創薬ターゲットとして大きな役割を持つことを示した。加えて本年度の研究では、Rines変異マウスが、社会的親和性の亢進など、社会性行動変化を示すことを発見した。これにより、ヒトにおけるモノアミン動態変動によって生じる、攻撃性や反社会的行動などの社会性行動障害の新たな分子発症機構の解明と創薬にも貢献したことになる。 さらに脳においても、Rinesがユビキチンリガーゼとしてモノアミン関連蛋白質のユビキチン化と分解を促進することを証明した。これまで、ユビキチン-プロテアソーム分解機構が、モノアミン経路の制御を行うことにより、情動行動および社会行動において重要な役割があることはあまり知られておらず、さらに、モノアミン関連蛋白質をターゲットとするユビキチンリガーゼの報告はほとんどない。 したがって本年度の研究成果はユビキチン-プロテアソーム分解機構の情動障害および社会性行動障害への重要性を示し、学術的に大きな貢献をしたと思われる。また、ユビキチンリガーゼ阻害剤は特定の蛋白質の分解阻害を選択的に行うため、創薬のための検索がさかんに行われている。したがって本年度の研究成果は情動障害および社会性行動障害の創薬にも大きな貢献したと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究で、脳におけるRinesによるモノアミン関連蛋白質分解機構がモノアミン動態の制御を行い、その結果、情動行動および社会性行動発現に重要な役割があることを示してきた。今後はさらに、Rines変異マウスの週齢による継時的変化を明らかにする。そのため、若齢から高齢までのそれぞれの時期による情動行動変化やその他の行動変化を各種行動解析を用いて検討する。さらに、各時期の各脳部位におけるモノアミン量の測定を行うことにより、時期特異的な行動変化とモノアミン動態の変動の検討を行う。加えて、各時期における、Rines基質蛋白質であるモノアミン関連蛋白質の変動や、さらなる他のモノアミン関連蛋白質の量的変動や局在などの時期特異的なモノアミン関連蛋白質の変動を検討する。 加えて、マイクロダイアリシスを用いて、情動行動および社会性行動中のモノアミン動態のリアルタイムでの精査を行う予定である。また、モノアミン関連阻害剤などの薬剤を投与した時の、行動およびモノアミン動態なども精査し、時期特異的な薬剤に対する感受性の違いを検討する。 さらに、若齢から高齢Rines変異マウスにおける形態的、組織的変化の精査を行う。各時期におけるRines変異マウス脳をMRIなどを用いて比較し、脳部位における形態変化がないか、または各種組織学的解析により、神経細胞の形態、局在および成熟度などに変化がないかを検討する。 さらに、モノアミン系初代培養神経細胞およびRines変異マウス由来初代培養神経細胞等を用いて、各種刺激をした時の、Rinesの発現や細胞内局在およびモノアミン関連蛋白質やモノアミンの動態について検討する。 以上により、Rines変異マウスの週齢による継時的変化を、行動学的、モノアミン関連蛋白質動態、モノアミン動態および形態、組織学的解析により検討していく。
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次年度の研究費の使用計画 |
H24年度には学会の発表を行わず、また研究が順調に進み、当初計画よりも経費がかからなかったため、H25年度への繰り越し金が生じた。繰り越した研究費は、H25年度分と合わせて、以下に使用する計画である。1)若齢から高齢マウスの各時期の比較を行うため、マウスの長期間飼育費として、マウスラック、ケージ、吸水ビン、餌、床敷などの消耗品に使用する。2)マイクロダイアリシスおよびモノアミン量測定、ストレス値測定などに伴う試薬などの消耗品、および機器使用料に使用する。また、各種モノアミン関連抗体を含む各種抗体、各種発現ベクターとそのコンストラクション用試薬、蛋白質精製などの遺伝子工学試薬、ユビキチン-プロテアソーム活性測定のための生化学実験関連試薬などの消耗品に使用する。さらに、各種の細胞および神経初代培養を行う上での、マウス、ラットなどの実験動物、および培地、血清、抗生物質などの試薬と、培養皿、ピペット、チップ等の消耗品に使用する。3)モノアミン関連阻害剤および神経細胞の刺激に用いる試薬、各種プロテアソーム阻害剤および蛋白質合成阻害剤等の薬剤費用に使用する。さらに、マウスの形態、組織学的観察のための、固定、包埋、染色用試薬および免疫染色のための各種抗体、発色液などの試薬に使用する。4)マイクロダイアリシス、モノアミン量測定、各種行動解析、およびMRI、顕微鏡などを用いた脳および各種臓器の形態観察、さらに神経細胞形態、量、局在などの変化の観察と計測、蛋白質量計測、各種モノアミン関連蛋白質活性測定等のために用いる各種パソコンとそのソフトウエアに使用する。5)本研究成果を国内および国外での学会およびシンポジウムで発表するための旅費などの経費、および論文投稿、英文校正など、学術誌発表に伴う経費に使用する。
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