研究概要 |
本研究は、新規脳内ユビキチンリガーゼRinesが脳内モノアミン調節因子として働き、情動および社会性行動発現に必須の役割があることを証明した。この成果は、学術誌および学会に報告した(Kabayama et al.,The Journal of Neuroscienc.2013,33(32):12940-53). Rines欠損マウスは一見、野生型と変化がないが、行動学的解析から、1) 新規環境での不安の亢進、不快刺激に対する嫌悪記憶やストレス反応性の低下、新規マウスに対する親和性の亢進など、ストレスに対する情動、社会性反応の異常を示す。さらに、2) 前頭前野や青斑核等におけるモノアミン量の低下と、不快ストレスに対するモノアミン反応性の異常を示す。また、3) 培養細胞および脳溶解サンプルにおいて、RinesはMAO-A蛋白質に結合し、MAO-Aのユビキチン化およびプロテアソームによる分解を促進することを明らかにした。4) 実際に、Rines欠損マウスでは、MAO-A活性の有意な上昇とMAO-A蛋白質量の有意な増加が、MAO-A発現量の高い青班核において観察された。5) さらにRines欠損マウスは、MAO阻害剤に対して野生型とは異なる情動行動反応を示し、複数の異常行動が改善した。これらはRines欠損マウスの情動異常がMAOを介していることを示す。これらのRines欠損マウスで見られる変化は、ヒトおよびマウスのMAO-A欠損と反対の表現型であり、MAO-A過剰の表現型とは一致する。 これまで、モノアミンオキシダーゼ(MAO)による迅速なモノアミンの代謝分解が、脳高次機能発現に必須であり、その破綻は様々な脳神経疾患を誘発することが知られてきた。しかし、MAO自身の蛋白質分解機構は明らかになっていなかった。本研究はユビキチンリガーゼRinesが、マウス脳におけるMAO蛋白質量を抑制することを初めて報告したものであり、情動障害などの新規の分子発症機序の解明に貢献するものと考えている。
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