研究課題
本研究は不随意の捻転を特徴とした運動を生じるジストニアの病態を明らかにすることを目的とし、ジストニアを引き起こすと考えられるジストニン遺伝子に変異を加えたマウス(以下、本マウス)の解析を行った。本マウスがジストニア症状を示すことは既に確認している。以上を踏まえ、平成26年度は本マウスの神経系における組織学的な解析を行い、1)感覚系および運動系領域における変性について論文にまとめる。2)コンディショナル・アリールにおける局所的ジストニンタンパクの不活性化による表現形の解析を行った。1)に関しては本マウスの感覚系領域である後根神経節および三叉神経における変性所見を得た。また運動系領域に関しても、脊髄灰白質のニューロンにリン酸化ニューロフィラメントの蓄積が生じていること、そして運動ニューロンの一部にもリン酸化ニューロフィラメントの蓄積が認められた。脳幹レベルにおいては咀嚼筋を支配する三叉神経運動核ニューロンが脱落する所見を得た。以上の結果を論文にまとめ、European Journal of Neuroscience誌に発表した。2)に関しては、昨年度の中枢神経系および末梢神経系特異的にジストニンタンパクを不活性化するコンディショナル実験に続き、平成26年度は、ジストニンタンパクを不活性化する領域を狭めて、脳幹部のリン酸化ニューロフィラメントの蓄積が認められる領域のみ不活性化する実験を試みた。不活性化実験を行うため、遺伝子組換え酵素Creを発現するアデノ随伴ウィルス(以下AAV-Cre)を脳幹部のリン酸化ニューロフィラメントの蓄積部位に局所注入した。AAV-Creを注入した本成体マウスは四肢が上手く使えない、回転運動を頻繁に行うなどの運動異常が現れたが、ジストニアの特徴である捻転は認められなかった。
2: おおむね順調に進展している
研究実績の概要に示したとおり、平成26年度は交付申請書に記載した研究実施計画の通りに概ね進めることができた。25年度から三カ年で得られた所見をまとめてEuropean Journal of Neuroscience 誌に発表することができた。またコンディショナル実験についても末梢神経系特異的にジストニンタンパクを不活性化することで小脳失調様の運動症状が現れること。そして、リン酸化ニューロフィラメントの蓄積が認められる脳幹部におけるジストニンタンパクを局所的に不活性化することで、四肢の運動障害が生じることが分かった。以上のコンディショナル実験を行ったマウスでは、ジストニア症状は認められなかったことから、ジストニアの原因部位は未だに不明である。
今後の研究推進方策は、ジストニンタンパクを末梢神経系と脳幹部で同時に不活性化することを考えている。ジストニンタンパクを末梢神経系あるいは脳幹部で不活性化すると、どちらにおいても異なるタイプの運動障害を生じた。ジストニアは感覚入力障害も原因の一つと示唆されていること、そして脳幹部の脊髄に投射するニューロン群は体幹や四肢の筋を調節して歩行や姿勢に関係することから、末梢神経系と脳幹部におけるジストニンタンパクの不活性化実験は、ジストニア症状の解明に寄与できると考えている。
複数の遺伝子改変マウスを使用しているが、いくつかの種のマウスについては、予定通りに匹数が増えず、その結果飼育費が予定額よりも少なくなったためである。
上記の予定匹数に達しなかったマウスについては、現在順調に子供が生まれ、今後の実験に必要な匹数に達しつつある。平成26年度の未使用学は次年度、これらのマウスの飼育費に使用する。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (3件)
European Journal of Neuroscience
巻: 40 ページ: 3458, 3471
10.1111/ejn.12711