研究課題
ヒトの遺伝子は高々2万数千個であるが、選択的スプライシングを行う事で、10数万種にもおよぶ蛋白質分子を作り出す。このスプライシング調節機構は精巧に制御されており、ひとたびこの調節機構が破綻すれば、時に重篤な疾患発現の引き金となる。各種脳疾患においても例外ではなく、各種神経変性疾患や精神疾患においても、種々の遺伝子のスプライシング異常が報告されている。統合失調症は、妄想や幻聴などを主症状とする慢性精神疾患で、罹患率は約1%にも及ぶとされている。当疾患の発症には多くの遺伝的要因と環境要因が複雑に関与しており、明瞭な原因解明も根本的治療法の開発も未だなされていない。興味深いことに近年、多くの統合失調症関連遺伝子のスプライシング異常が相次いで報告されている。しかしながら、異常スプライシングに積極的に焦点を当てた研究は殆ど成されていないのが現状である。そこで我々は、統合失調症患者の広範な病態と、グローバルなスプライシング調節因子hnRNPA1との間に相関性について検討したhnRNP A1の発現は過剰でも過少でもオリゴデンドロサイト(ODC)分化を攪乱させた。この現象は、細胞密度に依存しており、マイクロアレイおよびパスウェイ解析により、マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)群が関与していた。このMMP群の多くは、すでに統合失調症での関与が指摘されているものであった。一方、hnRNPA1は、オリゴデンドロサイト分化のみならず広く脳発達に関与するNeuregulin-ErbBシグナルに関与する因子群の選択的スプライシングを広く阻害あるいは変化させていることも明らかとなった。hnRNPA1の発現バランスが脳構築過程におけるスプライシング調節に重要であり、その攪乱が、統合失調症で指摘されているODC(ミエリン化)や神経細胞の分化異常を来すことが明らかになった。
2: おおむね順調に進展している
大きな目標である、hnRNPA1の脳発達への関与についてはおおむね証明できたといえる。その下流の詳細についても、二つのパスウェイの関与が証明でき良好と言える。
今後は現在までの成果に対して必要十分条件を満たしていくことと、疾患への関与、治療の可能性について研究を進めていく。
計画書に記載の通り、備品などの購入はなく、主に消耗品費および人件費として使用を計画している。
すべて 2012
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件)
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