研究課題
生物の発生においては、様々なシグナルが時空間的に制御されている。とりわけ空間的に離れた場所からの増殖シグナルがいかに幹細胞を制御しているのか、そのメカニズムはほとんど解明されていない。私は、その一例としてマウスの脳の発生過程において、神経が発現する増殖因子FGF18が遠くはなれた神経幹細胞を制御している可能性を見出した。本研究では、新たに見出した神経細胞由来の増殖因子の解析を通じて、マウス脳発生をモデルとした幹細胞の空間的、時間的な制御のメカニズムの解明を目的としている。平成24年度は、1)FGF18の作用点について、2)下流のシグナル伝達の解明について解析を行った。また、次年度の解析に向けてFGF18コンディショナルノックアウトマウスの作成を行った。1)FGF18の作用点についてFGF18ノックアウトマウスと、FGF18の過剰発現の幹細胞における効果を調べたところ、一過的な増殖の制御には作用しないが、未分化状態の維持に重要な役割を果たしている事が分かった。2)下流経路の同定下流の因子の同定を解明するために、ERK MAPKの活性をノックアウトマウスやFGF18過剰発現で調べたところ、ERK MAPK経路が主要な下流の因子である事が分かった。さらにMAPKのシグナルを可視化することを試みて、FRETプローブの導入によりライブイメージングにより直接的にFGFシグナルの観察する事に成功した。
2: おおむね順調に進展している
平成24年度の解析により、FGF18の幹細胞への作用点が細胞の未分化維持に作用している事、さらに下流のキーとなる因子としてERK MAPK経路を同定した。またそのシグナルを直接観察する事のできるアッセイ系を構築する事ができた。生体サンプルを使って、FGFのシグナルを直接観察できるようなった事は世界でもほとんど例がなく、今後のFGFシグナルを時空間的にとらえるのに非常に有用であると考えれる。また、FGF18コンディショナルノックアウトマウスの作成も完了し、生後において脳特異的にFGF18ノックアウトをする事により、FGF18遺伝子の致死性を回避して表現型を解析するための道具も用意する事ができた。これらの事より、実験の計画はおおむね順調に進んでいると考える。
今後は、開発したアッセイ系を用いて、FGF18のシグナルがどのように神経層から幹細胞まで伝えられているのか、ライブイメージングによって直接観察していく予定である。また、作製したコンディショナルノックアウト使い、生後の脳の形成にどのような影響を与えるのかを解析する予定である。さらには、シグナルの伝達の分子メカニズムや脳発生における生理的、進化的な意義についてさらに迫りたい。
該当なし
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