研究課題/領域番号 |
24700367
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
八幡 直樹 京都大学, iPS細胞研究所, 研究員 (60450607)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | アルツハイマー病 / iPS細胞 / 分化誘導 / 神経細胞 |
研究概要 |
アルツハイマー病は、記憶障害を中核とする進行性の認知機能障害を生じる神経変性疾患である。アルツハイマー病を研究するに当たり、様々なモデル動物やモデル細胞が使用されてきたが、過剰発現系や株化細胞、げっ歯類の神経細胞ではヒト神経細胞の環境が厳密に反映されているとは言い難い。 2007年に確立されたヒトiPS細胞作製技術によって、体細胞を初期化することにより疾患を有する患者自身の体細胞から、疾患特異的iPS細胞を経て、疾患の標的細胞を入手することが可能になった。 本研究では、家族性アルツハイマー病の原因遺伝子として知られ、アミロイドβ(Aβ)の産生に直接関わるPresenilin 1に変異を有した患者由来のiPS細胞を樹立し、分化誘導細胞を解析することにより、アルツハイマー病疾患メカニズムを解明する研究基盤を確立することを目的としている。 これまで、Presenilin 1変異を有するアルツハイマー病患者皮膚繊維芽細胞よりepisomal vectorを用いて作製したiPS細胞について、未分化マーカーの発現、三胚葉への分化能を有していることを確認し、クローンの選別を行った。得られたiPS細胞および、Presenilin 1変異を有しないiPS細胞から分化誘導により、グルタミン酸作動性神経を含む神経細胞を作製し、遺伝子発現解析用サンプルを得た。現在解析を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
これまで、樹立を行っていたアルツハイマー病患者由来iPS細胞について、クローンの選別を行った。episomal vectorのゲノムへの挿入が見られないクローンについて、未分化マーカーであるNanogやSSEA4の発現を確認した。さらに、各クローンから胚様体(Embryoid body)を作製し、外胚葉、中胚葉、内胚葉それぞれへの分化能を有していることをin vitroで確認した。また、Nod-scid マウスへiPS細胞を移植し、同様に三胚様へ分化することを確認した。 得られたiPS細胞について、これまで報告した方法により、神経細胞への分化誘導を行った。また、神経細胞への分化誘導後、Synapsin-EGFPレンチウイルスを感染させ、蛍光発色をした細胞をフローサイトメーターにより回収し、純化神経細胞を得た。現在、純化神経細胞の遺伝子発現解析を進めている。 一方、コリン作動性神経への分化誘導条件の確立については、準備段階である。
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今後の研究の推進方策 |
これまで、iPS細胞をグルタミン酸作動性神経細胞へ誘導し、フローサイトメーターにより、遺伝子発現解析をするためのサンプルを得たが、分化誘導効率の影響のみでなく、神経細胞特有の形態的特徴等により、細胞をシングル化し、ソーティングにより得られる神経細胞数は決して多くなかった。本研究では、神経細胞の中でも、特にコリン作動性神経細胞を選択的に得て、解析比較することを研究項目の一つとして掲げていたが、より限定されたポピュレーションの細胞を得ることは、現状に鑑みるとさらに困難である可能性を考えた。 一方で、アルツハイマー病患者の80%程度が脳の血管壁にAβの蓄積が見られる脳アミロイドアンギオパチーを併発することが知られている。そこで、今後は現在解析中のiPS細胞を神経細胞だけでなく、血管細胞へ分化誘導を行い、表現型と相関のある遺伝子発現変化が見られるかについても解析を進めていく予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
消耗品費として、iPS細胞培養、分化誘導、分化細胞培養に必要な培地、プラスチック用品および試薬; 生化学実験・免疫組織化学実験等に使用するプラスチック用品、実験試薬、抗体; マイクロアレイのチップ等遺伝子発現解析に伴う試薬の購入に使用する。 また、学会への参加費および論文作成にかかる費用にも使用する予定である。
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