アルツハイマー病(AD)は、記憶障害を中核とする進行性の認知機能障害を生じる神経変性疾患である。ADを研究するに当たり、様々なモデル動物やモデル細胞が使用されてきたが、過剰発現系や株化細胞、げっ歯類の神経細胞ではヒト神経細胞の環境が厳密に反映されているとは言い難い。 2007年に確立されたヒトiPS細胞作製技術によって、体細胞を初期化することにより疾患を有する患者自身の体細胞から、疾患特異的iPS細胞を経て、疾患の標的細胞を入手することが可能になった。 本研究では、家族性ADの原因遺伝子として知られ、アミロイドβ(Aβ)の産生に直接関わるPresenilin 1に変異を有した患者由来のiPS細胞を樹立し、分化誘導細胞を解析することにより、ADの疾患メカニズムを解明する研究基盤を確立することを目的とした。 Presenilin 1変異を有するAD患者皮膚繊維芽細胞よりプラスミドベクターを用いて作製したiPS細胞について、未分化マーカーの発現、三胚葉への分化能を有していることを確認し、クローンの選別を行った。得られたiPS細胞および、非疾患iPS細胞を、グルタミン酸作動性神経を主とする神経細胞へ分化誘導を行い、Synapsin-EGFPレンチウイルスを感染させて、蛍光を発した細胞をフローサイトメーターにより回収した。 回収した細胞について、マイクロアレイにより遺伝子発現解析を行い、AD群と非疾患群とで比較を行ったところ、AD群において、発現上昇あるいは減少が見られる遺伝子(群)が見出された。これらの遺伝子発現変化が、神経細胞特異的に観察されるものなのか否かについて検討する為に、AD-iPS細胞および非疾患iPS細胞から、血管細胞への分化誘導を試み、神経細胞と共に比較検討することを目指した。
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