研究課題
若手研究(B)
都市部在宅高齢者専門病院である当施設の認知症専門外来へ受診し、PIBを用いたアミロイドイメージ(PIB PET)検査を施行した症例の蓄積を行ってきた。各症例において、21箇所の関心領域を定め、各部位におけるPIBの集積を数値化し、脳の中でアミロイドβの沈着が少ないとされる小脳半球後葉を対照として集積比を算出、PIBの集積の程度を評価した。PIB PET施行後に不慮の顛末を生じた場合、御遺族の同意が得られた症例については積極的に剖検を施行し、既に9例得られている。剖検例の神経病理学的基盤として、http://www.mci.gr.jp/BrainBank/にも公表している高齢者ブレインバンクプロトコールに基づき、ホルマリン固定パラフィン包埋切片に対する免疫染色や特殊染色を行うことで、老年性変化や血管障害性変化の網羅的検索を行った。9例の内訳は、アルツハイマー病4例、パーキンソン病2例、筋萎縮性側索硬化症1例、クロイツフェルトヤコブ病1例、軽度老年性変化1例であった。PIB PETの結果との直接的な対比を目的として、老人斑は国際標準基準であるCERAD基準とともに、アミロイドβ免疫染色にて全体における陽性部位の割合を示した面積比を用いることにより定量的な評価を行った。9例のうち、PIB PETで大脳にびまん性に陽性であった症例が4例、局所的に陽性所見を認めた症例が3例、陰性例が2例であったが、明らかな陽性例は多数の老人斑を認め、局所的な陽性例は中等量の老人斑に加え局所的にneuritic plaqueを伴い、陰性例はびまん性老人斑を限局的に認めるのに留まるといった結果が得られた。明らかな陽性例、明らかな陰性例は既報告でも認め、また予想される結果であったが、その移行症例における結果は、PIB PETの診断精度や結果の意義、今後の活用法に大きな示唆を与えた。
2: おおむね順調に進展している
現在、PIB PETを施行した上、21の関心領域(一次運動野、一次視覚野、中前頭回、中側頭回、縁上回、楔前部、後部帯状回、前方・後方島回、固有海馬、扁桃核、側坐核、尾状核、前方・中央・後方被殻、中隔核、マイネルト基底核、視床、中脳、小脳半球前葉)のPIBの集積を数値化し、小脳半球後葉を対照として集積比を算出した症例は、現在115例まで蓄積した。これらのデータの解析も進んでいる。また同時に臨床症状やバイオマーカーの評価を行い、それらとPIBの集積パターンとの対比を行うことが可能となっている。PIB PET施行後に不慮の顛末を生じた症例については、研究実績の概要に記載したとおりである。高齢者ブレインバンク登録例についての検討としては、2012年3月末の時点で、1993例の神経病理学的診断が検討済でかつ、アミロイドβ沈着の評価として、老人斑をBraakアミロイドステージにて全例で決定済、またアミロイドアンギオパチーについてもその有無、血管の変性、二次的な血管障害の有無についても評価済である。特にアミロイドアンギオパーについては現在連続219例の検討により、その進展様式が明らかになってきており、後方皮質(一次視覚野/縁上回)、前方皮質(中前頭回/中側頭回)、小脳半球、海馬、被殻の順に広がる症例がほとんどであることが示された。老人斑とは異なる進展パターンを呈することとなり、PIBが老人斑のみならずアミロイドアンギオパチーにも集積するとされることから、明確に分別することが必要であることを示唆する結果を得た。以上より、データの蓄積という点では進んでおり、またそのデータを解析中であるが、新知見も得られており、研究全体としておおむね順調に進展しているものと判断する。
PIB PET検討例については引き続き、追加蓄積を行い、本研究に加える。不慮の顛末をとった症例については積極的に剖検を得るように努力する。平成24年度だけでも3例の登録があり、これまで年間1~2例程度であったことを考慮すると、微増ではあるが、蓄積例自体の増加も見込まれ、それらを追加検討する。症例ごとの検討のみならず、部位特異的なアミロイド沈着やPIB集積パターンを明らかにする。高齢者ブレインバンク登録例についても、本年には今後も同等の追加が見込まれ、同様の検討を行う。また本人/家族による剖検の生前同意を得た症例も増加傾向を示し、研究期間中に追加蓄積が期待され、これらはより詳細な前方視的スクリーニングを全例に行っており、本研究に加える予定である。これまで蓄積したデータと今後蓄積されるデータを組み合わせること、また各疾患群における対比のみならず、各症例の部位別の検討を加えることで、PIBの集積の意義、その程度により沈着しているアミロイドβの形態やその量を含めた予測までを考察する。また、他の老年性変化、臨床所見、遺伝学的背景との対応も図る。以上より、ヒト中枢神経系の老化におけるアミロイドβ沈着様式を明らかにすることで、老年性変化におけるアルツハイマー病とそれに至る一連の過程の全貌を明らかにすることを目指す。
高齢者ブレインバンクプロトコールを遂行するため、またアミロイドβ集積の評価のために、免疫組織化学的検討が必要であり、市販一次抗体の購入、ベンタナNexNX自動免疫装置試薬と、病理学的検索に必要なガラス器具等に、消耗品費の多くを宛てる。残りは、分子遺伝学的検索のための試薬の購入にあてる。研究結果の報告は国際英文論文を通じ行い、特に国民へは各種国内学会での発表、日本語論文を通じ発信を行う。そのために旅費、学会参加費、印刷費を当てる。また新知見の情報収集のためにも、同様の費用を当てる。ゲノム解析のための研究補助員に対し、謝金を当てる。また雑費は、本研究費の取り扱い上必要な予定である。
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