研究課題/領域番号 |
24700376
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
高崎 一朗 富山大学, 生命科学先端研究センター, 助教 (00397176)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 抗うつ薬 / デルタメトリン |
研究概要 |
うつ病の治療には適切な薬物療法が必須であるが,既存の抗うつ薬の有効性は6-7割であり,新しい抗うつ薬の開発が求められている。近年,うつ病には脳・海馬における脳由来神経栄養因子(BDNF)の減少,神経新生の減少が深く関与していることが報告された。したがって,BDNF 発現と神経新生を促す化合物は,新しい抗うつ薬となることが期待される。我々はこれまでに,II型ピレスロイド系殺虫剤の成分のひとつであるデルタメトリンが,初代培養神経細胞においてBDNF mRNA の発現を強く誘導すること,神経幹/前駆細胞からの神経細胞への分化を促進することを明らかにしてきた。そこで本研究では,まずデルタメトリンが抗うつ様作用を有するかどうかの基礎的研究を行った。 抗うつ様作用の評価は,強制水泳試験法を用いた。すなわち,マウスを逃避不可能な円筒状の水槽に入れ,6分間の行動をビデオ撮影し,強制水泳における無動時間を測定した。デルタメトリン腹腔内投与後,1および24時間後においては無動時間の短縮(抗うつ様作用)は認められなかったが,投与後12時間において有意な無動時間の短縮が確認された。デルタメトリン投与後,Rota-Rod試験やオープンフィールド試験などで筋力低下や自発運動量の変化を測定したが,溶媒群と比較して差は認められなかった。次に脳海馬におけるBDNF mRNAの発現をリアルタイムRT-PCR法により解析したところ,投与後1および24時間後には変動は見られなかったが,投与後12時間後において有意に増大した。またin situ hybridizationによる検討からも,BDNF mRNAが海馬歯状回,CA1,CA3の領域において強く発現上昇していることも確認できた。以上のことから,デルタメトリンが抗うつ様作用を有し,その効果には海馬におけるBDNF遺伝子発現上昇が関与していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の目的は,デルタメトリンが抗うつ様作用を有しているかどうかの基礎的検討を行うことであった。研究の結果,デルタメトリンが強制水泳試験法において,抗うつ様作用を有し,また脳海馬におけるBDNF遺伝子発現を増大させることを明らかにした。当初の目的は,上記に加え,ストレス負荷マウスのうつ様行動に対するデルタメトリンの効果を検討する目的も含まれていたが,この課題に関しては現在継続中であり,順調に研究が進んでいる。さらに,デルタメトリンをリード化合物とした誘導体の合成も順調に進んでおり,数種の新規化合物の合成に成功している。 以上のことから,当初予定していた研究実施計画はおおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度の実験を継続し,完了させる。また以下の実験を追加で行う。 デルタメトリンおよび誘導体化合物の抗不安作用に関する研究-慢性ストレス負荷を受けたマウスは,うつ様症状だけでなく,不安様行動も示す。そこでデルタメトリンお よび誘導体化合物が抗不安作用を有するかどうかについて検討する。不安関連行動は,高架式十字迷路試験,ホールボード試験,オープンフィールド解析,明暗探索試験により評価する。比較対象としてジアゼパムなどの既存の抗不安薬を用い,効果発現の違い(投与量,投与回数,効果発現までにかかる時間など)を詳細に検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
初年度の研究はおおむね計画通り順調に進んだが,15,730円の繰越額が生じた。 ・薬品:遺伝子関連試薬,抗体,神経細胞培養試薬,化合物合成用試薬を購入予定,750千円を計上・実験動物:マウス計300匹を研究に使用予定,450千円を計上・実験用消耗器具:注射筒,滅菌チューブ,滅菌チップ等を購入予定,215千円を計上・旅費:国内学会および国際学会にて研究成果の発表を予定しており,400千円を計上 H25 1,800千円 繰越 15千円 計 1,815千円
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