本研究では自閉症責任領域であるヒト染色体15q11-13領域の重複マウス(15q重複マウス)において、社会性に関与する脳領域および分子について明らかにすることを目的とする。本年度は昨年度明らかになった脳内セリンの減少に着目し、大きく以下の3点について解析を行った。 1.生後発達期における脳内セリンの定量 2. セリン生合成経路の主要な酵素であるPhosphoglycerate dehydrogenase (PHGDH)の定量 3.D-サイクロセリン投与による自閉症様行動のレスキュー実験 本解析の結果、15q重複マウスでは生後2週齢から脳内セリンの減少が認められることが分かった。この時期はシナプス形成が最も盛んな時期であり、自閉症の中心的病態として認識されている"シナプスの異常"という観点から興味深い結果となった。しかし、PHGDHの量については野生型マウスと比較しても変化がなかったため、単純な合成酵素量の変化によるものでないことが分かった。また、この脳内セリンの減少が15q重複マウスにおける社会性異常に影響しているかを調べるために、D-サイクロセリンを投与し、その行動異常を調べた。完全に野生型と同様にはならなかったものの、15q重複マウスにおいて社会性の改善が認められた。さらに現在、D-サイクロセリン投与により自他認識異常が改善するか、他の社会性行動試験においても改善が認められるかを検討しているところである。
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