研究課題/領域番号 |
24700385
|
研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
山森 早織 北里大学, 医学部, 助教 (30464803)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
|
キーワード | リン酸化 / 神経伝達物質放出 / ストレス / SNAREタンパク質 / 脳 |
研究概要 |
シナプスの機能はタンパク質のリン酸によって様々に制御されているが、その制御が脳の機能にどのように関わっているかについては未だ明らかではない。SNAP-25は開口放出による神経伝達物質放出や、細胞膜へのイオンチャネルの組み込みなどに不可欠なタンパク質で、PKC依存的にリン酸化される。申請者は脳でのSNAP-25のリン酸化が、ストレスや向精神薬の投与で上昇することや、SNAP-25のリン酸化部位に変異を加えた変異マウスではストレスへの適応障害や不安様行動が出現することを見出しており、本研究ではこれらの発見を基に、脳でのSNAP-25のリン酸化の制御機構や役割を明らかにすることを目的とする。 野生型およびリン酸化部位を変異させたノックインマウスの脳から調製したシナプトゾームを用いて、現在のところSNAP-25のリン酸化が各種の神経伝達物質(ドーパミン、セロトニン、ノルエピネフリン、GABA)の放出を促進的に制御する可能性が見出されており、SNAP-25の脱リン酸化に関わるホスファターゼの1つとしてPP2Aが関与することが明らかとなり、こちらは既に論文となった (Iida et al. Neurosci Res. 2013 (75):184-189)。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の予定であった、SNAP-25のリン酸化を変化させる内在性物質のレセプターの探索について、今のところ成果が得られていない。遅延の理由は、各種の神経伝達物質の放出を測定実験に期間を要したためである。この実験ではRI標識した各神経伝達物質を各トランスポーターを介して取り込ませて、放出量を測定する手法を用いているが、トランスポーターのリガンド選択性が低いことが新たに明らかとなり、トランスポーターの阻害剤の検討を行うなどの工夫が必要となり期間を要した。 一方で、次年度に予定している血中コルチコステロンの測定の予備的実験はすでに開始しており、性差があることが明らかとなり、ストレスによる血中濃度の変動を回避する安定した採取法も確立している。
|
今後の研究の推進方策 |
今年度は昨年度の到達目標「SNAP-25のリン酸化がどのような内在性物質のレセプターを介して制御されているか」の補完に加えて、当該年度予定の、SNAP-25のリン酸化がストレス反応に脳内のどのような部域で、どのような機序で、どのような役割で関わっているかを、野生型およびリン酸化部位を変異させたノックインマウスを用いて明らかにし、さらに向精神薬の作用機序にSNAP-25のリン酸化が関わる可能性について解析を行うことを目指す。 実験法としては、SNAP-25のリン酸化を変化させるアゴニストやアンタゴニストを、シナプトゾームを用いてスクリーニングし、リン酸化の制御に関わるレセプター系を明らかにし、これらにより神経伝達物質放出の促進・抑制が起こるかを調べる。 さらに、脳内ストレス機構とSNAP-25のリン酸化の関係性を明らかにするために、①SNAP-25のリン酸化が起こる脳内部位を、抗リン酸化抗体を用いて明らかにする。 ②野生型マウスにストレスを加えた際に起こるSNAP-25のリン酸化が、リン酸化制御に関わるレセプター作用薬で影響されるかを調べる。 ③上記作用薬の投与によって、急性ストレス反応およびストレス適応にどのような影響が現れるかを調べ、さらにSNAP-25のリン酸化部位を変異させたノックインマウスのストレス応答やストレス適応機能を詳細に解析する。 ④野生型マウスおよびSNAP-25変異マウスにクロザピンを投与し、ストレス反応や情動行動にどのような影響が生じるかを比較する。 脳内でのリン酸化部位を可視化解析するための免疫組織化学的手法の確立を目指しているが、現在までのところ保有抗体より良い抗体は新たに得られておらず、染色方法についての検討により力を注ぐ予定である。
|
次年度の研究費の使用計画 |
抗体作成や免疫組織化学に用いる試薬類、シナプトソームやマウスに作用させる薬剤、動物の飼育・購入費、ストレス反応を評価するための血中グルココルチコイド測定キットなどが引き続き必要となる。また、シナプトソームを用いた神経伝達物質放出量測定では、アイソトープラベルした神経伝達物質の追加購入が必要となる場合がある。 次年度もひきつづき学会発表を予定しており、論文への投稿も目指す。
|