IRBITの標的分子の一つで細胞内pH調節に関わるNBC1の機能制御を中心に神経細胞およびグリア細胞におけるIRBITの役割について解析を行った。細胞内の酸性度(pH)の制御は正常な細胞機能維持に必須であり、神経細胞およびグリア細胞においても神経活動依存的なpH制御がなされている。そこで、IRBITノックアウトマウスおよび野生型マウスの海馬から調整した神経細胞およびグリア細胞混合培養系において、遺伝子発現解析および脱分極刺激応答性の細胞内アルカリ化(DIA)の細胞内pHイメージング解析を行った。 その結果、1、シナプス形成期にNBC1の発現が著しく増加する事を見出した。2、野生型神経細胞位において、シナプス形成後の培養神経細胞では脱分極刺激により、一過性の酸性化およびその後のアルカリ化(DIA)が生じるが、シナプス形成期前の培養神経細胞では脱分極刺激による酸性化のみ誘導され、その後のDIAが起こらない事を見出した。3、IRBITノックアウトマウス由来の海馬神経細胞を用いて同様の実験を行ったところ、シナプス形成の有無に関わらず、脱分極刺激による酸性化は確認されたが、その後のDIAが起こらない事を発見した。4、グリア細胞においても、IRBITノックアウトマウス由来のグリア細胞は野生型にくらべて脱分極刺激応答性のDIAが減弱している事がわかった。これらの事は神経細胞の成熟過程に伴う細胞内pH制御機構の発達およびグリア細胞による細胞内外のpH制御にIRBITが寄与している事を示している。 細胞内外のpHはNMDAR等のpH依存性の蛋白質の活性制御を介して神経可塑性等の神経細胞機能に寄与している事が考えられ、IRBITノックアウトマウスにおける行動異常の発症機構の原因となっている可能性がある。
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