研究課題/領域番号 |
24700392
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研究機関 | 公益財団法人東京都医学総合研究所 |
研究代表者 |
渡邉 快記 公益財団法人東京都医学総合研究所, 運動・感覚システム研究分野, 研究員 (70595587)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | Dockファミリー / 神経栄養因子 / small G protein / アクチン / 神経変性疾患 |
研究概要 |
Rac1の下流ではアクチンの重合を促進するWAVE(WASP family verprolin-homologous protein)が活性化され、成長円錐の葉状仮足形成を引き起こす。申請者らはDock3が細胞質中でWAVEと複合体を形成し、自らの移動に伴ってWAVEを細胞膜近傍まで輸送することを見出している。つまりDock3は単にRac1活性を高めるだけでなく、WAVEの膜輸送によって効率良くアクチン重合を促進するものと予想されるが、細胞膜上でリン酸化修飾を受けた際にはWAVEを解離する。そこで申請者はこのDock3リン酸化機構を詳細に検討する目的で、すでに約400カ所のリン酸化候補部位に関するスクリーニング解析を行い、2か所のリン酸化部位を同定した。さらに現在までに各々のリン酸化Dock3抗体の作製を完了している。アフリカミドリザル腎線維芽細胞でWT Dock3とリン酸化部位に変異を入れた非リン酸化型Dock3を発現させてウエスタンブロッティング法を行ったところ、それぞれの抗体がリン酸化を特異的に認識することを確認した。さらに、Dock3の主要な結合分子であるElmoよってリン酸化が増強されることを見いだした。さらに最近では、これらのDock3リン酸化酵素の同定することに成功しており、今後はDock3シグナル伝達経路について、さらに詳細な解析が可能となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Dock3リン酸化部位の同定に加えて、そのリン酸化酵素の同定に成功したことは今後の分子シグナルの解明に大きく進んだと考えられる。Dock3を含めDockファミリー分子の分子メカニズムについては不明な点が多く、近年リン酸化による制御機構の存在が徐々に明らかになっている。申請者はDock3のリン酸化によるGEF活性の調節機構を明らかにしつつある。今後はDock3のリン酸化による制御機構をより詳細に解明することにより、Dockファミリー全体に共通する制御機構解明の一助としたい。
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今後の研究の推進方策 |
Dock3およびDock8はオリゴデンドロサイトおよびオリゴデンドロサイト前駆細胞(OPC)にも発現することから、これらの分子がミエリンの保護・再生効果に与える影響について脱髄疾患モデルマウスを用いて検討する。申請者らはcuprizone誘発急性脱髄モデルの安定的な作製に成功しており、Dock3 Tgマウスではcuprizoneによる脱髄の軽減および再髄鞘化が促進される傾向を見出している。今後はWTマウスとDock3 Tgマウスに対してBrdUの腹腔内投与を行い、cuprizoneによる脱髄時にOPCの分化状態に変化が生じるか検討する。またOPCおよび成熟オリゴデンドロサイト数の定量化を行い、Dock3が再髄鞘化過程に与える影響を総合的に評価する。 さらにDock3 Tgマウスを用いた多発性硬化症モデル動物(EAEマウス)における脱髄・再髄鞘化過程を同様に検討する。このように複数の脱髄疾患モデルを用いることにより、どちらかに有意差がみられなかった場合のリスクを避け、Dock familyの確実かつ詳細な機能解明が可能となる。またこれらの解析はDock8 TgマウスおよびDock8欠損マウスでも行う予定である。このうちDock8欠損マウスに関してはすでに検討を開始しているが、EAEによる視神経脊髄炎の顕著な軽症化を示唆するデータを得ている。今後はTUNEL染色、残存オリゴデンドロサイトの定量、caspase3などの細胞死実行因子の活性状態の検討、電子顕微鏡による変性軸索の定量化等を通して、Dock3およびDock8によるミエリンの保護・再生効果の全体像を明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究で使用する実験動物の購入および飼育などの費用は研究者独自に用意する必要があるため、動物購入・飼育費として研究費を使用する予定である。 疾患モデル動物の解析には多種類の抗体が不可欠であるとともに、初代培養細胞作成には細胞種別に様々な細胞研究用器具や栄養因子の添加などを要するため、組織学実験用試薬および細胞培養用品の購入費として使用予定。 さらにPCR、SDS-PAGEやWestern blottingなど、生化学実験に関する費用も必要であることから、生化学実験用試薬の購入費として使用予定。
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