研究概要 |
グアニンヌクレオチド交換因子(GEF)はRhoファミリー (Rac1, Cdc42, RhoA) の活性を制御することにより、細胞骨格の1つであるアクチン繊維の再構築を調節している。GEFにはDbl- homology(DH)domainと呼ばれる共通の触媒領域が存在すると考えられてきた。しかし近年になってDH domainを欠く新たなGEFとしてDock familyが発見され、現在までに知られている11分子(Dock1-11)はいずれもDHR1およびDHR2という特徴的な領域を持っている。その中でもDock1はアポトーシス細胞の食作用、筋芽細胞の融合などに重要な役割を持ち、そのシグナルネットワークに関しては国内外の研究者によって比較的多くの研究がなされている(Laurin et al., Proc Natl Acad Sci USA, 2008他)。またDock2はリンパ球の走化性に、Dock4の変異は様々な癌の発生や転移に関与することが報告されており、Dock familyの生理活性は多岐に渡ることが予想される(Côté and Vuori, Trends Cell Biol, 2007)。このようなDock familyのうち、本研究では特に精神・神経疾患との関わりが注目されるDock3を中心に研究を進める。Dock3は神経栄養因子brain-derived neurotrophic factor(BDNF)の下流で軸索伸長に寄与するが、その際にDock3のリン酸化修飾が重要な役割を担う可能性を見出している。そこで本研究ではリン酸化によるDock3の活性調節機構の解明を進めるとともに、神経細胞死や軸索変性に対する神経保護および再生療法にDock3が有用であるかを検討した。
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