研究課題/領域番号 |
24700398
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
河村 吉信 広島大学, 医歯薬保健学研究院, 特任助教 (30397179)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | ニューロン / シナプス / 神経回路 / 生後発達 / オリーブ小脳路 |
研究概要 |
生後発達期の活動依存的な機能的神経回路の構築過程には、初期に過剰なシナプス結合が形成され、その後、必要な結合の強化、不必要な結合の弱化・除去が起こることが知られている(シナプスの刈り込み)。必要なシナプスの選択には、神経細胞が電気的に活動することが必要であるとされているが、このプロセスの中でシナプス前終末の神経活動が与える影響についてはほとんど明らかになっていない。本研究は下オリーブ核-登上線維-プルキンエ細胞投射系に着目し、生体内下オリーブ核神経細胞の生後発達期の活動パターンを解析することにより、シナプス前終末の神経活動とその成熟プロセスがシナプス刈り込みに与える影響を明らかにすることを目的とする。平成24年度において、生後発達期下オリーブ核神経細胞からホールセルパッチクランプ法によって神経活動を記録することを計画した。予備実験として、成熟マウスを用いて、脳図譜に従って延髄背側からガラス電極を刺入し、下オリーブ核神経細胞の細胞外電気活動の記録に成功した。また、電極に充填した色素を記録部位へ注入し、記録後、脳固定標本を作成し、記録部位が下オリーブ核であることを同定した。同じ方法により、生後発達期マウス、またはラットを用いて、下オリーブ核神経細胞の電気活動記録を試みたが、現在、成功に至っていない。生後初期の動物では麻酔下において自発脳活動が微弱であることが知られており、このことが成功に至らない理由として考えられる。記録を試みた部位への色素注入を行い、記録後、脳固定標本を作成し、電極刺入部位の同定を行ったところ、下オリーブ核へ電極が到達した確率は50%であった。現在、小脳皮質から登上線維活動を同時に記録することによって、下オリーブ核神経細胞の同期した活動を指標にした部位の同定、または、登上線維を逆行性刺激したときの発火応答を指標にした部位の同定を試み、記録成功率の向上を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成24年度の研究計画では生後発達期下オリーブ核神経細胞から、ホールセルパッチクランプ法によって電気活動を記録することであったが、現在その成功に至っていないことから、研究目的の達成度はやや遅れていると自己評価している。下オリーブ核へ電極が到達しているかどうか、刺入部位への色素注入によって脳固定標本を記録後に作成し、確認した。現在は電極の刺入部位や角度などを改善し、発達初期の動物においても、50%の確率で、電極を下オリーブ核へ刺入させることが可能となった。このことは今後、下オリーブ核神経細胞から電気活動を記録できる可能性が高いことを示している。また、申請者はこれまで、下オリーブ核神経細胞が投射する小脳プルキンエ細胞からホールセルパッチクランプ法によって電気活動を記録し、生後初期の動物において、この神経回路における自発活動が麻酔下では、低頻度であることを明らかにしている。このことが電極を下オリーブ核へ到達させることが成功しているにも関わらず、活動の記録に至らない原因であると予想している。この解決策として、外部から下オリーブ核神経細胞の活動を誘導することで、記録の成功を目指す。現在、小脳皮質から登上線維活動を同時に記録することによって、下オリーブ核神経細胞の同期した活動を指標にした部位の同定、または、登上線維を逆行性刺激したときの発火応答を指標にした部位の同定を試み、記録成功率の向上を目指している。また、これまでの申請者の研究により、生後発達期においても、感覚刺激によって、登上線維の活動を誘導できることを明らかにしている。この感覚刺激を一定間隔で与えることで、下オリーブ核神経細胞の活動を誘導し、下オリーブ核の部位の同定を簡便にできるか試す予定である。
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今後の研究の推進方策 |
研究の目的である、生後発達期下オリーブ核神経細胞の活動と登上線維発達の関連を明らかにするためには、活動の実態を明らかにするとともに、その活動を生み出すメカニズムを明らかにすること、また、その活動を変化させたときに生じる発達への影響を明らかにすることが重要である。生後発達期下オリーブ核へのガラス電極によるアプローチ法を50%の確率で達成したことで、下オリーブ核への色素や薬剤の注入が可能になった。これまでに、蛍光標識された順行性トレーサー(Dextran-Alexa)を発達初期の下オリーブ核へ注入し、2日後以降に脳固定し、その後、小脳スライス標本を作成した。このスライス標本を蛍光顕微鏡により観察したところ、蛍光トレーサーで標識された登上線維を確認できた。今後、この方法に薬剤投与を組み合わせ、下オリーブ核神経細胞の活動を変化させたときの登上線維発達への影響を、固定標本による登上線維の形態学的な解析と急性スライス標本を用いた登上線維-プルキンエ細胞シナプス活動の電気生理学的な解析を行うことで明らかにする。特に、下オリーブ核神経細胞間の同期活動に関わることが知られている、ギャップジャンクションや興奮性、及び抑制性シナプス伝達の阻害剤による効果を解析する。この実験計画と現在進行中の下オリーブ核神経細胞の電気活動を直接測定する計画を平行して行うことで、研究目的の達成を推進する。
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次年度の研究費の使用計画 |
消耗品費として、実験動物の購入・維持のための経費、シナプス応答解析及び神経活動を操作するための試薬の購入、実験に必要な手術用消耗器具の購入にあてる。研究成果を発表するために、国内外の学会に参加するための旅費及び研究成果投稿料をあてる。
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