研究課題/領域番号 |
24700398
|
研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
河村 吉信 広島大学, 医歯薬保険学研究院, 特任助教 (30397179)
|
キーワード | ニューロン / シナプス / 神経回路 / 生後発達 / オリーブ小脳路 |
研究概要 |
生後発達期の活動依存的な機能的神経回路の構築過程には、初期に過剰なシナプス結合が形成され、その後、必要な結合の強化、不必要な結合の弱化・除去が起こることが知られている(シナプスの刈り込み)。必要なシナプスの選択には、神経細胞が電気的に活動することが必要であるとされているが、このプロセスの中でシナプス前終末の神経活動が与える影響についてはほとんど明らかになっていない。本研究は下オリーブ核-登上線維-プルキンエ細胞投射系に着目し、生体内下オリーブ核神経細胞の生後発達期の活動パターンを解析することにより、シナプス前終末の神経活動とその成熟プロセスがシナプス刈り込みに与える影響を明らかにすることを目的とした。平成25年度において、平成24年度で成功に至らなかった生後発達期の麻酔下マウスにおける下オリーブ核神経細胞からホールセルパッチクランプ法による電気活動記録の確立を引き続き目指した。これまでの経験を踏まえて脳と記録電極の角度や、露出させた延髄表面を濃度の高い3%アガロースでカバーし、脳の揺れを最小限にするなどの記録条件の改善を行った。これによって、生後4日から1カ月齢のマウスにおいて、ホールセルパッチクランプ法による単一下オリーブ核神経細胞からの電気活動記録に成功した。また、この記録動物から記録後に脳固定標本を作成し、記録細胞に注入したバイオサイチンの蛍光染色によって記録細胞の位置および、形態の同定を一部の記録細胞において成功した。現在、この記録の例数を増やしており、記録細胞の内因性の電気特性、発火活動、およびシナプス活動について生後発達変化に着目して解析している。今後、この解析によって下オリーブ核-登上線維-プルキンエ細胞投射系の生後発達期シナプス刈り込みに関わる下オリーブ核神経細胞の活動実態解明を推進することが期待される。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度に計画した生後発達期下オリーブ核神経細胞から、ホールセルパッチクランプ法による電気活動記録が成功したことから、研究目的の達成度は高いと自己評価している。本研究における最終目的はシナプス前終末の神経活動とその成熟プロセスがシナプス刈り込みに与える影響を明らかにすることである。この目的において、生後発達期における下オリーブ核神経細胞の電気活動を観察することは必須であった。現在この記録した電気活動の生後発達変化をシナプス刈り込みのプロセスと対応させ解析しており、今後、シナプス刈り込みが起こる時期に特徴的な活動実態が明らかになると考えられる。また、その活動実態がシナプス刈り込みにどのように関わるかを特定の活動を薬理学的な方法によって操作することによって明らかにしていく。
|
今後の研究の推進方策 |
研究の目的である、生後発達期下オリーブ核神経細胞の活動と登上線維発達の関連を明らかにするためには、活動の実態を明らかにするとともに、その活動を生み出すメカニズムを明らかにすること、また、その活動を変化させたときに生じる発達への影響を明らかにすることが重要である。生後発達期下オリーブ核神経細胞から、ホールセルパッチクランプ法による電気活動記録が成功し、さらに、下オリーブ核への色素や薬剤の注入を行う条件検討が完了した。すでに、蛍光標識された順行性トレーサー(Dextran-Alexa)を発達初期の下オリーブ核へ注入し、2日後以降に脳固定し、その後、小脳スライス標本を作成した。このスライス標本を蛍光顕微鏡により観察したところ、蛍光トレーサーで標識された登上線維を確認できた。今後、この方法に薬剤投与を組み合わせ、下オリーブ核神経細胞の活動を変化させたときの登上線維発達への影響を固定標本による登上線維の形態学的な解析と急性スライス標本を用いた登上線維-プルキンエ細胞シナプス活動の電気生理学的な解析を行うことで明らかにする。特に、成熟期の下オリーブ核神経細胞間の同期活動に関わることが知られている、ギャップジャンクションや興奮性、及び抑制性シナプス伝達の阻害剤による解析を行う。この実験計画と現在進行中の下オリーブ核神経細胞の電気活動の記録、および解析を平行して行うことで、研究目的の達成を推進する。
|