生後発達期に機能的な神経回路が構築される過程には、初期に過剰なシナプス結合が形成され、その後、必要な結合の強化、不必要な結合の弱化・除去が起こる(シナプス刈り込み)。この過程には、神経細胞の電気的活動が必要であるとされているが、生体内におけるシナプス前終末を担う神経細胞の活動実態がどのようなものであるかほとんど明らかになっていない。本課題は登上線維-小脳プルキンエ細胞投射系におけるシナプス前終末の起始細胞である下オリーブ核神経細胞(inferior olivary neuron: ION)の生体内における活動実態に着目した。 生後4日から1ヶ月齢のC57BL/6マウスを用いて、イソフルラン吸入麻酔下におけるIONからホールセルパッチクランプ記録を行う方法を確立した。生後発達期IONの電気特性、また、自発発火、及び、発火閾値下の膜電位変動は、生後2週齢を境にその性質が急激に変化することが分かった。特に、この時期を境にIONの特徴であるリズミックな発火パターンと発火閾値下の膜電位オシレーション(Subthreshold oscillation:STO)が顕著に観察され始めた。リズム発火とSTOが示す周波数は発達に伴って増大し、成熟動物で報告されている~10Hzの周期性は生後17日齢の細胞から観察されはじめた。また、観察された膜電位変動において、高速フーリエ変換を用いて周波数特性を調べたところ、コントロール条件下で観察された約8Hzのパワーピークがギャップ結合の阻害剤投与後に記録した細胞では減弱した。この結果は生体内で観察される~10Hzのリズム発火とSTOが神経細胞間のギャップ結合依存的な活動であることを示した。リズム発火とSTOが観察され始めた時期は登上線維-プルキンエ細胞シナプス刈り込みの時期と重なることから、STOがシナプス刈り込みに関連することが示唆される。
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