小脳は、運動学習において重要な役割を果たしていることが知られており、限られた種類の細胞が整然と配列した組織であることから、神経回路網研究のモデルシステムとして優れた標本である。小脳皮質唯一の出力細胞であるプルキンエ細胞群の入出力線維は、解剖学的に矢状方向にクラスターを構成することが知られており、この矢状クラスター構造が小脳の機能的ユニットであるという仮説が提唱されている。しかし、この仮説を検証するために従来主に用いられてきた手法(電気生理学的記録)では、1) 記録している細胞の位置を正確に調べることが容易でない、2) 同時に記録できる細胞数が限られている、という技術的制約が大きな障壁となっており、その解決が望まれていた。 そこで本研究では、プルキンエ細胞群の矢状クラスターを同定した上で、活動を単一細胞レベルで記録するための実験系を構築することを試みた。まず、アデノウイルスを用いた誕生日特異的遺伝子導入法により、マウス・プルキンエ細胞群が形成する矢状クラスターを蛍光タンパク質により可視化した。次に、in vivo 2光子イメージングを用いて、Ca2+色素によりプルキンエ細胞群の活動を単一細胞レベルで記録するための実験系の構築を行なった。麻酔下のマウスにおいて、プルキンエ細胞群の自発活動および感覚応答を記録し、矢状クラスターとの関係を解析するための実験系確立に成功した。 今後は、本研究で明らかになった技術的課題を克服しながら、同一矢状クラスターの機能的均一性、異なる矢状クラスターの機能的独立性、個体間での再現性について詳細に追究することが望まれる。
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