研究課題/領域番号 |
24700410
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
平山 晃斉 大阪大学, 生命機能研究科, 特任助教 (40437398)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | CTCF / Protocadherin |
研究概要 |
CCCTC結合タンパク質 (CTCF)は、ゲノム配列やエピゲノム修飾に依存してDNAに結合し、高次染色体構造を形成することで遺伝子の発現を制御する。しかし、神経系での役割については明らかでない。私は、終脳領域の分化した神経細胞で特異的にCTCFを欠損させたマウス(CTCF-cKO)を作製し、解析をおこなった。CTCF-cKOマウスは、メンデル比に従って生まれてくるが、生後に発達異常や行動異常を呈し、1ヶ月以内に死亡した。マイクロアレイによる網羅的な解析から、特にクラスター型プロトカドヘリン(Pcdh)のうち53のアイソフォームの発現が著しく低下していることが分かった。クラスター型Pcdhは、個々の神経細胞で異なるアイソフォームが確率的かつ組み合わせ的に発現することで神経細胞に分子的多様性を生み出すことが知られている。in situ hybridization法、および定量的RT-PCR法によりCTCF-cKOマウスでクラスター型Pcdhの発現が著しく低下していることが確認できた。また、マウスでは、生後にヒゲからの入力刺激を受けることで大脳皮質にバレル構造と呼ばれる特徴的な構造が形成されるが、CTCF-cKOマウスでは全く形成されないことを明らかにした。さらに、CTCFを欠損した神経細胞では、樹状突起の分枝やスパインの形成に異常を示すこと、興奮性後シナプス電流は正常でありながら、発火頻度が減少していることを明らかとした。これらの結果は、CTCFがクラスター型Pcdhの確率的な遺伝子発現に関与し、機能的な神経回路の発達に関わる重要な因子であることを示す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
中枢神経系におけるCTCFの役割について解析するため、終脳領域の分化した神経細胞で特異的にCTCFを欠損させたマウス(CTCF-cKO)を作製した。大脳皮質、および海馬の組織を用いてマイクロアレイによる遺伝子発現解析をおこない、Pcdh遺伝子群の発現が顕著に低下していることがわかった。Pcdh遺伝子群の発現変化は、定量的RT-PCR法、in situ hybridization法により確認し、CTCFがクラスター型Pcdh遺伝子群の確率的な遺伝子発現に関わる重要な因子であることを明らかとした。また、CTCF-cKOマウスは、体性感覚野のバレル構造が全く形成されないこと、樹状突起の分枝やスパイン形成の発達に異常を示すことを明らかにした。これらの成果は、英文査読付論文として発表(表紙に採用)、学会発表、新聞への掲載など通して国内外に発信することができた。よって、これまでのところ研究はおおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究成果により、終脳領域の分化した神経細胞でCTCFがPcdhの発現制御と神経回路形成に重要な役割を果たしていることが分かった。次に、CTCFによる染色体構造の変換と神経分化との関係を大脳皮質の形成過程をモデルに解析をおこなう。 分化した神経細胞特異的CTCF欠損マウスで、樹状突起やシナプスの発達に異常が見られた。樹状突起、およびシナプス形成過程をイメージング技術により継時的に観察することで、神経細胞の発達過程においてCTCF欠損マウスで何が起きているのかの詳細な解析をおこなう。 Pcdh-γクラスターのエンハンサー領域は、未だ同定されていない。Pcdh-γクラスターのエンハンサー領域は、遺伝子領域から遠く離れたところに位置している可能性が高く、効率的に探索する必用がある。これまでの研究により、CTCFがPcdh遺伝子群の制御に重要であることがわかっており、Pcdh-γクラスターのエンハンサー領域にもエンハンサーが結合することが想定される。そこで、Pcdh-γ遺伝子クラスターに近いCTCF結合領域から選択的に解析することで、エンハンサー領域の同定を進める。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度はおおむね順調に研究が進展し、研究の進展に伴い必用な研究費をその都度執行した。また、得られた研究成果をまとめて、論文として発表することにも注力した。そのため、当初の見込み額と執行額は異なったが、研究計画に基本的な変更はない。本年度は、前年度の研究費も含め、引き続き当初の計画通りに研究を推進する。
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