研究課題/領域番号 |
24700411
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
小林 琢磨 近畿大学, 東洋医学研究所, 助教 (80582288)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | CMOSイメージセンサ / 蛍光イメージング / 脳機能解析 / 電気生理 / 視覚野 / 人工視覚 / マウス / 行動試験 |
研究概要 |
これまでの研究で、自由行動下で動物の左右視覚野における神経活動を同時に光学的に計測するために脳内埋植型半導体イメージセンサを用いたデュアルイメージングシステムを構築した。そして当該システムを運用し、実際に自由行動下マウスの左右視覚野における神経活動を電位感受性蛍光指示薬を用いて同時に可視化した(Kobayashi et al., 2011)。本年度はさらに視覚野からの蛍光シグナルをより検出しやすくするためのデバイス実装条件検討を行った。各種の電位感受性色素で染色したHEK293細胞を波長の異なる固体レーザあるいはLEDで励起しながらhigh-K刺激し、細胞の膜電位変化に付随した蛍光スペクトル変化を検証することでデバイスに実装する蛍光励起用に最適な波長のLEDを選別した。また、マウス視覚野を含む脳スライスカルチャーを行い、様々な深度で皮質に埋植した蛍光ビーズを皮質硬膜側からイメージセンサで撮像することにより、LEDの実装位置、照射方向、励起光強度の条件検討を行った。特に視覚野第4層の蛍光を計測するために最適化した。次に、脳スライス、生体脳においてhigh-K刺激で人為的に誘起した神経活動を、試作したデバイスで蛍光計測した。同時に電気生理学的に計測した局所細胞外電位と比較しながら、最適な蛍光シグナルが得られるようにイメージセンサ上の測定用蛍光透過フィルタの重層実装条件を検討した。以上の検討を適用した新しいデバイスを試作して運用した結果、硬膜上からでも眼からの光明滅刺激に応答した視覚野の生理的な神経活動を弁別して計測することが可能となった(Kobayashi et al., 2012)。これによりデバイスを硬膜下に埋植しなくても良く、より低侵襲で長期間のイメージングが可能な脳機能光計測技術を確立できたと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでのイメージセンサでは薬物(high-K)や電気刺激で人為的にevokedした神経活動しか検出することができなかったが、今回の試作デバイスの改良により眼からの光刺激に応答した視覚野の生理的な神経活動を計測することが可能となり、また硬膜上からも測定することが可能となった。試行錯誤の蓄積により研究実施者のデバイス実装過程における基本的なプロセス技術が向上し、生体脳へのセンサ適用術式の技量が向上したことも一助となった。イメージセンサの感度、および時空間分解能には一層の向上が好ましいが、自由行動下の生体脳において半導体イメージセンサで神経の生理活動を光計測するという脳機能光測定技術を確立することができたと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
研究代表者の異動により新しい環境で研究室の立ち上げ中であるが、奈良先端大 光機能素子科学教室との連絡を密にしてプロジェクトを支障無く遂行する。 現在、脳内埋植型半導体イメージセンサによる蛍光脳機能解析技術を用い、複数のイメージセンサを同時駆動して生体脳に適用することで、より広い脳領域で同時に神経活動を計測するためのイメージングシステムを開発しつつある。本手法は数~数十の神経細胞を対象とした従来の微小電極を用いた電気生理学的計測より多い数百~数万の神経細胞を対象とした光計測を可能とする。また従来型の顕微鏡による光計測では動物頭部を固定し1個の対物レンズによって平面的な観察を行うことになるが、本手法では複数センサの分散運用で多面的な視野が得られ、かつ対象動物の行動を妨げない。本手法により離れた脳領域間での差時的な神経活動を計測でき、これまで明らかな有機的な脳領野間連絡に加えて大規模な生理的な連絡、活動の伝播過程が新たに明らかになるものと期待している。試作したデバイスは運用過程で常に改良を必要とし、実用性を高めるために繰り返し試作を繰り返さざるを得ない。都度条件検討を行うために地味で忍耐を要する作業であるが、執念を持って確実に前進させ責務を果たす。今期はS/Nの向上とダイナミックレンジ拡大のため、14-bitオペアンプを搭載した中継基板を新たに設計、開発したので、これを適用する。 蛍光イメージングにより得られた膨大な画像データの解析には多大な労力と時間を要し、一個人のみで処理するには限界があるため、学会などで新たに交流を得たデジタルデータ解析を専門とする脳科学者たちと連携するなど研究の効率化を検討したい。 また現在、LSIチップ上で培養した細胞に光感受性遺伝子であるChR2(チャネルロドプシン)を導入して光刺激し、同時にCaイメージングによりその活性の計測を試みている。
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次年度の研究費の使用計画 |
広域脳機能蛍光イメージングをマウス、もしくはラットを用いて実施する。このために使用する実験動物、および電位感受性色素や分子生物学、生化学実験用試薬を購入する。また、培養神経細胞を遺伝子操作し、Caイメージングするために必要な遺伝子導入用試薬、蛍光指示薬、微生物培養用試薬を購入する。デバイス試作、運用のためには工具、電子部品、制御機器や電気生理実験用の電極、パソコン、計測機器、解析用ソフトなどを購入する。さらに組織学的解析、動物行動解析などを行うため、抗体や染色液などの試薬、解析装置自作のための工作部品などを購入する。
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