研究概要 |
これまでの研究で、カルシニューリン(Ca2+/カルモジュリン依存性のタンパク質脱リン酸化酵素、以下Cn)がショウジョウバエの睡眠制御に重要な役割を果たすことを発見した(Tomita, J. et al., J. Neurosci., 2011)。また、Cnシグナルの上流に位置するNMDA型グルタミン酸受容体を全神経でノックダウンすると、Cnノックダウンと同様に睡眠量が著しく減少することを見出し、NMDA受容体-Cnシグナル経路による睡眠制御が示唆された(投稿準備中)。 本年度に行った解析で、脳の様々なニューロンで部分的にCnやNMDA受容体をノックダウンしても睡眠量の減少は認められず、脳の広範囲な領域でのNMDA受容体-Cnシグナル経路が睡眠制御に関与することが示唆された。CnおよびNMDA受容体は、シナプス可塑性に働く分子である。そこで、睡眠の量的制御機構の一つとして提唱されているシナプス恒常性仮説における、これらの分子の機能解析を目的とした。この研究を行うためには、成虫ニューロンで時期特異的にCnの機能を阻害できる実験系が必要だが、成虫ニューロンでのコンディショナルRNAiは効果がみられなかった。そこで、Cnのドミナントネガティブ変異体を発現させることができるトランスジェニックハエ(UAS-CanA-14F DN)を作製した。成虫ニューロンで時期特異的に発現させたところ、睡眠量の減少がみられた。 今後、この実験系を用いて、睡眠-覚醒に伴うシナプス形態の変化などとCnとの関係性を探ることで、シナプス恒常性仮説による睡眠制御機構を解明する。
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