研究課題/領域番号 |
24700415
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研究機関 | 公益財団法人東京都医学総合研究所 |
研究代表者 |
松野 元美 公益財団法人東京都医学総合研究所, 運動・感覚システム研究分野, 主席研究員 (90392365)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 長期記憶形成 / ショウジョウバエ / 神経・グリア相互作用 |
研究概要 |
申請者は、I)長期記憶形成時にグリア細胞で転写因子Repo依存性に新規遺伝子発現が起こること、II)長期記憶形成には細胞接着因子Klingon (Klg)を介した神経・グリア相互作用の増加が重要な働きを担うこと、を見出しているが、さらにRepoの活性制御にKlgが関与することを示唆する結果を得た。本研究は「長期記憶学習→Klgを介した神経・グリア相互作用の増加→グリア細胞でのRepo依存性遺伝子発現の上昇→長期記憶形成」という長期記憶形成経路を立証し、神経・グリア相互作用を介したグリアによる長期記憶形成制御という新規メカニズムを確立することを目的としている。 本年度は(1)長期記憶形成時の細胞接着因子Klgを介した神経・グリア相互作用が脳内のどこで必要か?(2)Repo依存性の転写が長期記憶形成に必要か?(3)長期記憶形成時の転写因子Repoの発現増加はKlgを介した神経・グリア相互作用依存性か?の3点を明らかにする実験を行い、以下の結果を得た。 (1)klgの脳部位特異的ノックダウンにより、ドーパミン作動性神経、グルタミン酸作動性神経、及びアストロサイトにおけるklgの発現が長期記憶形成に重要であることを示した。 (2)repoの急性ノックダウンにより、Repoを介した転写制御は長期記憶形成過程に必要であること、klg変異体のレスキュー実験により、RepoがKlg依存性長期記憶形成に必要であることを示した。 (3)長期記憶学習によるRepoの発現増加はKlgを介した神経・グリア相互作用依存性であることを神経またはグリア細胞でのklgノックダウン個体を用いて示した。 以上より、長期記憶学習後のKlgを介したドーパミン作動性神経とグリア、またはグルタミン酸作動性神経とグリアの相互作用が結果として、長期記憶形成に必要なRepoを介したグリアの遺伝子発現を制御すること、が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(3)の研究課題、「長期記憶学習によるRepoの発現増加はKlgを介した神経・グリア相互作用依存性か?」については当初はklgの急性ノックダウンを用いて示す予定であったが、急性ノックダウンによって誘導される変化は安定しないという技術的問題が生じたため、単なるklgのノックダウンを代用し、示した。他の課題(1),(2)については予定通り遂行できた。
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今後の研究の推進方策 |
前年度までに申請者は「長期記憶学習後のKlgを介したドーパミン作動性神経とグリア、またはグルタミン酸作動性神経とグリアの相互作用が結果として、長期記憶形成に必要なRepoを介したグリアの遺伝子発現を制御すること」を示した。 長期記憶形成には遺伝子、タンパク発現が重要であるが、具体的な下流エフェクター分子の知見はまだ十分とは言えない。そこで今年度は(4)長期記憶学習時、Repoがどのようなターゲット遺伝子の発現制御をしているのか?ターゲットの探索を行う。見つかったターゲット遺伝子については、長期記憶学習後、その発現増加がklgやrepo変異体で抑制されるか?、ターゲット遺伝子の変異体は長期記憶を特異的に障害しているか?を示したい。 また、(5) 前年度に(1)の課題により明らかになった長期記憶形成に必要な神経・グリア回路を主たる対象として、長期記憶学習依存性の細胞内カルシウム上昇や神経・グリア接合の変化などを可視化観察する予定である。 ショウジョウバエでは特定の神経回路にGCaMPなどCa indicatorを発現させて匂い学習させることで、記憶形成に必要な脳領域の同定と活性変化の解析が行われている。その結果、長期記憶形成にはキノコ体alpha-lobeが必要であることが示唆されている。一方、神経・シナプスと接したグリアはシナプス活動に応じて細胞内Caを上昇させることが分っているため、もし、長期記憶形成に神経・グリア相互作用が必要であるのであれば、学習後、記憶形成に必要な神経・グリア回路においてもCa上昇が観察される可能性がある。さらに、神経・グリア細胞にKlg-GFPキメラタンパクを発現させ、両者が接した時のみ蛍光を発するような個体を作成することで、長期記憶形成過程に起こるKlgを介した細胞間相互作用を定量的に可視化・観察したい。
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次年度の研究費の使用計画 |
一般試薬購入費、海外出張費、実験動物維持費、論文投稿費に使用予定である。
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