研究概要 |
申請者は、I)長期記憶形成時にグリア細胞で転写因子Repo依存性に新規遺伝子発現が起こること、II)長期記憶形成には細胞接着因子Klingon (Klg)を介した神経・グリア相互作用の増加が重要な働きを担うこと、を見出しているが、さらにRepoの活性制御にKlgが関与することを示唆する結果を得た。本研究は「長期記憶学習→Klgを介した神経・グリア相互作用の増加→グリア細胞でのRepo依存性遺伝子発現の上昇→長期記憶形成」という長期記憶形成経路を立証し、神経・グリア相互作用を介したグリアによる長期記憶形成制御という新規メカニズムを確立することを目的としている。 前年度までに申請者は長期記憶学習後のKlgを介したドーパミン作動性神経とグリア、またはグルタミン酸作動性神経とグリアの相互作用が結果として、長期記憶形成に必要なRepo依存性のグリアの遺伝子発現を制御することを示した。 本年度は当初は(4)長期記憶形成過程でRepoはどのようなターゲット遺伝子の発現制御をするのか?(5)長期記憶学習によって活性化する神経・グリア回路の観察の2点を行う予定であったが、KlgおよびRepoと加齢性記憶障害との関連という興味深い事象を見いだしたため、こちらの解析を優先的に行った。具体的には(1) 加齢個体の脳では長期記憶学習依存性に細胞死が観察される。(2) 加齢個体ではKlg, Repoの発現が共に低下している。(3) 若齢個体でKlg/Repo活性を低下させると、加齢個体と同様、細胞死が誘導される。の3点を見いだした。以上の結果は1. 長期記憶学習は細胞死を誘導する。2. Klg/Repo経路によるグリア遺伝子発現増加が細胞死の抑制に関わる。ことを示唆している。
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