研究課題/領域番号 |
24700423
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
倉岡 康治 近畿大学, 医学部, 助教 (10581647)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 社会的情報 / 報酬 / 嫌悪 / 大脳基底核 / 大脳辺縁系 / サル / ニューロン |
研究概要 |
本研究の目的は、大脳辺縁系や大脳基底核は、生理的報酬・生理的嫌悪と同様に、社会的報酬・社会的嫌悪の情報処理も担っているか否かを明らかにすることである。そのために他個体の顔写真などの社会的刺激を用いて脳内神経活動を記録している。平成24年度はサルを対象にした単一ニューロン応答記録とヒトを対象にした脳機能イメージング研究を行った。 サルの実験では、社会的情報を有する画像を複数用意し、その価値を水報酬に置き換えるとどの程度になるかを行動課題で評価することから始めた。社会的報酬刺激として、異性の正面写真や臀部写真あるいは同性の威嚇表情写真を用意し、写真を見るためにサルが水報酬を避けるか、あるいは求めるかを検討した。被験体のサルは異性の写真や臀部の写真を見るために水報酬が減ることを受け入れたので、これらの写真はサルにとって報酬刺激となっていた。一方、サルは同性の威嚇表情写真を見るためによりたくさんの水報酬を求めたので、この写真はサルにとって嫌悪刺激となっていた。以上の社会的刺激を見せたときの大脳基底核ニューロン応答を記録するため、記録システムをセットアップした。ニューロン活動記録装置や眼球運動モニタ装置を購入した。さらには大脳基底核のうち腹側線条体ニューロンの活動を記録するため、サルの頭部に固定具や記録用チャンバを取り付ける手術を行った。視覚刺激高速提示ソフトも購入しセットアップを始めた。あとは刺激提示装置のセットアップを完了すれば腹側線条体ニューロンの活動を記録できる状態に達した。 ヒトの実験では、提示される複数人の顔写真のうち1人を選ぶ課題を遂行中にfMRIにより脳活動を記録した。現状の解析デザインでは大脳辺縁系や大脳基底核の活動を見出していないが、ミラーニューロンシステムの一部である右背側運動前野に賦活がみられた。社会的刺激の処理における右背側運動前野の関与が明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度は、1)社会的情報を有する画像の刺激評価、2)神経生理応答記録のためのシステム構築、3)ヒト脳機能画像実験、おもに計画していた。 1)に関しては異性や同性の画像を用意して、その価値を水報酬に換算して評価することで、異性の画像が報酬刺激となり、同性の画像が嫌悪刺激となっていることを明らかにした。2)関してはまだ刺激提示装置のセットアップが必要であるが、脳内ニューロン記録のための手術も終了しており、あと少しで単一ニューロン活動の記録が開始できる状態に達している。3)に関しては26名の健常被験者を対象にfMRI実験を行い、解析の進めている。これ以上被験者を増やさずに解析法を検討する段階にある。 以上のように当初計画していたおもな3点について、順調に計画を進め、結果も得られてきている。特にサルの研究においては脳内ニューロン活動の記録には達していないため、計画以上の進展というわけにはいかないが、近いうちにニューロン活動記録も始められる段階に達しているため、次年度以降も順調に進んでいくものと期待できる。ヒトの研究においてもとりあえずの結果を得ており、今後の解析法の検討により、よりよい結果が得られると期待できる。 平成24年度より新たな研究機関に所属することになったため、研究実施環境を最初から立ち上げる必要があったが、幸いにも大きなトラブルに見舞われることなく、本研究課題を順調に進めることができた。よって本研究課題は”おおむね順調に進展している”と言える。
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今後の研究の推進方策 |
サルの研究においては、刺激提示装置のセットアップを完了し、当初の計画通り大脳基底核や大脳辺縁系から単一ニューロン応答の記録を進める。現在、腹側線条体から単一ニューロン記録をするための手術を終えているため、この領域を最初のターゲットにする。腹側線条体ニューロンからある程度データが集まったのちには、扁桃体からのニューロン応答記録も試みる。腹側線条体や扁桃体で社会的報酬・嫌悪刺激に関連するニューロン活動が得られれば、それら領域の微小電気刺激を行ったり、反対に神経活動阻害薬物を投与したり、扁桃体に作用して社会的行動へ影響を与えることが知られている神経伝達物質の投与することが、刺激価値を評価する行動課題へ与える影響を調べ、大脳基底核や大脳辺縁系の社会的報酬・嫌悪刺激の処理への関与について検討する。 ヒトイメージング研究においては、右背側運動前野以外に課題関連領域がないか、解析法を検討する。解析の結果によっては追加の被験者からデータを得る。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度は年度初頭では計画していなかった視覚刺激高速提示装置を構築するため、前倒し支払請求を行い、ソフトを購入した。しかしソフトに対応する制御用PCの選定に時間がかかって年度内に購入することができず、一部の研究費が次年度に繰り越しとなった。次年度は制御PCを購入して刺激提示装置を構築を完了する。 他にも、次年度はニューロン応答記録用の電極や、必要に応じてニューロン応答記録・解析ソフトの追加機能を購入する。また得られた成果については随時学会等の研究会で発表するたえめ、研究会に参加するための旅費等にも研究費を使用する。
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