研究課題/領域番号 |
24700423
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
倉岡 康治 近畿大学, 医学部, 助教 (10581647)
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キーワード | 社会的情報 / 報酬 / 大脳基底核 / 大脳辺縁系 / サル / ニューロン |
研究概要 |
本研究の目的は、大脳辺縁系や大脳基底核は、生理的報酬と同様に、社会的報酬の情報処理も担っているかを明らかにすることである。そのために他個体の顔写真などの社会的刺激を用いて脳内神経活動を記録している。平成25年度はおもにサルを対象にした単一ニューロン応答記録を行った。 平成24年度に行動実験にて、被験体のサルは異性の写真を見ることを好み、一方、同性の威嚇表情や服従表情を見ることを避ける傾向があることが明らかになっていた。そこで平成25年度は、これらの社会的刺激を見ている最中の腹側線条体ニューロン活動を記録した。社会的刺激だけでなく、社会的刺激の到来を予測させる幾何学図形を写真に先行させて提示した。 116個の腹側線条体ニューロンを記録したところ、53個のニューロンは社会的刺激の予測刺激である幾何学図形に応答を示した。そのうち8個は好ましい社会的刺激に対する応答が好ましくない社会的刺激に対する応答より有意に大きかった。社会的刺激に関連して応答するニューロン全てについて、好ましい社会的刺激と好ましくない社会的刺激に対する応答差がどれほどあるかを調べるため、ニューロン応答を用いてROC解析を行い、その値の時系列変化を調べたところ、予測刺激提示中にROC値は0.5と有意に異なっていた。この結果は、腹側線条体ニューロンが集団として、好ましい社会的刺激に対する応答が好ましくない社会的刺激に対する応答より大きいことを示す。さらにニューロン応答に基づいてクラスター分析により刺激を分類したところ、好ましい社会的刺激群と好ましくない社会的刺激群は、異なるクラスターに分類された。 これらの結果は腹側線条体ニューロンが、好ましい社会的情報の処理にも関与していることを示している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度から平成26年度にかけて、社会的刺激やそれらに対応付けられた幾何学図形に対するニューロン応答を大脳基底核および大脳辺縁系より記録する計画である。もともとは大脳基底核と大脳辺縁系両方から並行してニューロン応答記録を行う予定であったが、先に大脳基底核である線条体の腹側部のニューロン応答記録を集中的に行った。よって大脳辺縁系のニューロン応答記録はまだ始まったばかりである。しかし、平成26年度は大脳辺縁系の中で特に扁桃体から集中的にニューロン応答記録ができることになるため、2年かけて2つの領域よりニューロン応答記録を行うという当初の計画は達成できると考えている。 ニューロン応答の記録に加えて、可逆的神経活動抑制薬物により、腹側線条体の機能を一時的に不活性化することが、被験体のサルが社会的刺激に対する好ましさをどう変化させるかについての検討も始めている。当初の計画を超える実験であるが、これにより腹側線条体ニューロンの社会的刺激に対する応答の役割を明らかにすることができため、実施している。 以上の点を踏まえて、本研究計画は、おおむね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度は、おもに大脳辺縁系である扁桃体から社会的刺激に関連するニューロン応答の記録を行う。データがある程度集まった段階で、これまでに記録していた腹側線条体のニューロン応答と比較し、社会的刺激の価値の処理における、腹側線条体と扁桃体の役割の違いについて検討する。 さらに大脳基底核および大脳辺縁系の活動を神経活動阻害薬物を用いて抑えたり、反対に微小電気刺激を用いることで活性化することで、社会的刺激を見るために水報酬を減らしてもよいか、あるいは増やす必要があるかの行動課題に影響が出るかを調べる。これらの処置により、大脳基底核や大脳辺縁系のニューロン応答が、確かに社会的刺激の価値を処理することに関わっているかの因果関係を検証する。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初、平成25年度は11月に海外学会での成果報告を予定しており、その海外旅費として30万円から40万円の使用を計画していた。しかし、学会会期と被る日程で教務が入ってしまい、止む無く海外学会への参加を断念することにした。そのため、海外旅費として使用予定であった研究費が残っている。 平成26年度はおもにニューロン応答の記録・解析に必要な物品を購入する。実験動物、応答記録のための電極、記録・解析のためのソフトウェア、記録・解析ソフトのためのPC、生体アンプ、記録のための器具などである。 また神経活動抑制薬物などの消耗品や成果発表のための学会旅費にも使用する。
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