本研究の目的は、大脳辺縁系や大脳基底核は、生理的報酬と同様に、社会的報酬の情報処理も担っているかを明らかにすることである。そのために他個体の顔写真などの社会的刺激を用いて脳内神経活動を記録している。平成26年度はおもにサルの扁桃体から単一ニューロン応答記録を行った。 実験では、被験体のサルに対して、好ましい刺激である異性の写真や、反対に好ましくない刺激である威嚇や服従の表情写真および、それらの社会的刺激の到来を予測させる幾何学図形を写真に先行させて提示し、脳内ニューロン応答を記録した。平成26年度には、前年度に記録した腹側線条体ニューロン応答の結果を、第9回ヨーロッパ神経科学連合フォーラムおよび第37回日本神経科学大会で発表した。さらに、腹側線条体に神経投射をしている扁桃体からニューロン応答を記録した。扁桃体ニューロンは、予想に反して、表情写真そのものに応答するものは少なく、それらの社会的刺激の到来を予測させる刺激に一過性の応答を示すものが多かった。扁桃体は外部環境にある対象がもつ生物的価値を評価していると考えられている。よって、本研究の結果より、扁桃体のニューロンは、社会的に価値ある存在の到来を事前に予期し、それに対応するための準備に関わっている可能性が示唆される。 前年度に、腹側線条体も社会的刺激の予期に関わる応答を示すという結果を得ていたが、扁桃体における同様の応答の結果と扁桃体から腹側線条体への神経投射の事実を踏まえると、腹側線条体における予期応答は扁桃体から入力されている可能性が示唆される。
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