研究課題/領域番号 |
24700428
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
東濃 篤徳 京都大学, 霊長類研究所, 研究員 (30470199)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
|
キーワード | マカク / ヘパチウイルス / 次世代シークエンサー |
研究概要 |
C型肝炎の原因ウイルスであるHCVは非A,非B型肝炎ウイルスとして20年以上前に単離された.HCVは世界的に蔓延しており,抗ウイルス剤や治療用ワクチン開発が急務である.HCVは急速な感染拡大をしていることから,その起源となるウイルスが種の壁を越えたと考えられるがHCVの起源を決定づけられるようなウイルスオルソログは未だ見つかっていない.現時点ではタマリンから単離されHCVと同じくへパチウイルスとして分類されているGBウイルスB型があり,新世界ザルに感染し肝炎症状を示すことが知られている.また近年では,網羅的な塩基配列の解読結果からイヌ,ウマ,マウスにおけるヘパチウイルスの同定がなされている.しかしながらヒト,タマリン,イヌ,ウマ,マウス以外の哺乳類からヘパチウイルスが単離された報告はなくHCVの起源は未だ明らかにされていない.本研究ではマカク類で検出された抗HCV抗体陽性個体および肝炎マーカーが高値な個体に着目し旧世界サルヘパチウイルスの同定を目的とする. 本研究によりウイルスメタゲノム解析法を確立できれば,野生由来サンプルに応用することによって,野生動物に潜むウイルス探索を行うことができると考えている. 昨年度600頭以上のマカクから血漿サンプリングを行い肝炎マーカーの測定を行った.これらのうちで肝炎マーカーが比較的高い個体は14頭であり,およそ2%であった.はじめにGPT高値なサンプルおよびポジティブコントロールとしてGBV-Bバイレミア血漿からウイルスRNAを抽出し,cDNA合成,および次世代シークエンサー用ライブラリを調整後,次世代シークエンサーを用いてウイルスメタゲノム解析を行った.得られたリード数はおよそ12万リードであった.この内ウイルスデータベースにヒットしたものは13リード,0.01%であった.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに600頭以上のマカク(アカゲザル,ニホンザル,タイワンザル,ボンネットマカク,カニクイザル)から血漿サンプリングを行い,血液生化学検査(肝炎マーカーの測定)を行うことで肝臓に何らかの異常がある可能性が高い個体の選抜を行うことができた.これらのうちで肝炎マーカーが比較的高い個体はさほど多くはないが14頭であり,およそ2%であった.次に極微量であると思われる,血漿中ウイルスRNAを抽出し,cDNAとして逆転写,増幅,次世代シークエンサー用ライブラリ作製,およびこのライブラリを用いて次世代シークエンサーを用いてRNAウイルスゲノムを検出するプロトコルを確立することができた.また今回確立できたプロトコルでは,次世代シークエンサーが持つ「大量の配列解読を行うことができる」という強みを活かし,サンプルごとに目印となるタグ配列(アダプター配列)を負荷することにより,1度のランで複数サンプルを同時にシークエンスできるようにした.従って今年度は肝炎マーカーの高い個体由来の血漿サンプルを複数用いて,次世代シークエンサーを用いたウイルスゲノム探索を行うことができた.シークエンス後のデータ解析ではソフトウェアとして主にNewbler assmeblerを用いることとした.当ソフトウェアを用いることにより,多検体の配列(リード)集合からタグ配列を手掛かりとしてサンプルごとのデータの振り分け,およびリードデータのアセンブリを行うことができた.アセンブリされたコンティグ配列は,その後のデータベースへの照合を行うことで,どのような配列を検出することができたかを確認した.結果としてわずかながらもウイルスゲノムを複数種検出することができた.以上の成果から概ね順調に達成していると判断した.
|
今後の研究の推進方策 |
これまでにサンプリングおよび血液生化学検査がなされた血漿サンプルから肝炎マーカーの高い個体,低い個体で,それぞれ複数サンプルを選抜し,血漿中ウイルスRNAを抽出,cDNA逆転写,増幅,次世代シークエンサー用ライブラリ作製,および次世代シークエンサーによるRNAウイルスゲノムを検出する.この実験により検出されたウイルスゲノムを肝炎マーカーの値が高低双方のサンプルで比較できるようになるため,検出されたウイルスが原因となって肝炎マーカーの数値に影響を与えているか判断できると考えている. また血漿サンプルからのRNA抽出の部分では,液相分離によるRNA抽出方法,カラムによるRNA抽出方法などを比較することで,より血漿中のウイルスRNA抽出に適した方法を検討する. 今後マカクヘパチウイルスゲノムが検出されれば,得られた旧世界サルへパチウイルスゲノム配列をHepatitis C Virus (HCV), GB Virus-B (GBV-B),Canine Hepaci Virus (CHV), Non-Primate Hepaci Viruses (NPHV),Rodent Hepaci Virus (RHV)などと比較し,ヘパチウイルス属の中でどのような位置づけがされるかを明らかにすることで,これまで不明であったHCV の起源を明らかにする.さらに全身からのサンプリングが可能なことは実験動物であるサル類を用いる特色でもある.すなわち消化器,循環器,呼吸器,泌尿器,生殖器,内分泌器,感覚器,脳神経系,運動器など各臓器からウイルスゲノムを抽出しデータ解析を行うことでマカクへパチウイルスの組織分布について考察する.その後ウイルスが同定された組織のライセートとヒト培養細胞,新世界ザル初代肝細胞などとの共培養から得られた培養上清を用いることにより,旧世界サルヘパチウイルスの分離を試みる.
|
次年度の研究費の使用計画 |
次年度の研究費の使用計画として,これまでにサンプリングされたマカク血漿のうち肝炎マーカーの高い個体,低い個体で合計12もしくは24サンプルからウイルスRNAを抽出し,cDNA合成,および次世代シークエンサー用ライブラリを調整する.ライブラリ調整時にはアジレント社のバイオアナライザーを用いてクオリティチェックをする予定である.ここまでにおよそ40万円の費用がかかる.さらに実際の次世代シークエンサーの稼働に30万円程度を見込んでいる.その後次世代シークエンサーのメンテナンス費用としてメンテナンスキット,保守契約(分担負担)でおよそ20万円を必要とする.残る20万円で論文投稿費用,学会出張費用を賄う予定である. その他の必要な機器に関しては,所属する機関の備品を用いる.遺伝子配列解析に必要なPCR サーマルサイクラー,シークエンサー,次世代シークエンサーなどの機器を備えている.また,1度のランで複数サンプルを同時に実験することによって安価に解析を行うための方法も開発されているため,少ない消耗品で解析を実行することができると考えている. 現在稼動している次世代シークエンサーシステムにおける解析費用やRNA サンプルの分離にかかる消耗品代としては極限まで圧縮できていると思われる.深いゲノムカバー率でシークエンスを行おうとするとこの金額では到底足りないが,全体の予算規模を考えて1-2ラン程度に圧縮している.残る予算に関しては膨大なデータ量になると見込まれる次世代シーケンサーデータ解析コスト,新規ヘパチウイルス同定後のウイルス分離のための培養細胞を用いた実験に必要な消耗品などに充てる.旅費は年1回は研究成果を発表するとして概算した.
|