研究課題/領域番号 |
24700429
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
小野 慎子 大阪大学, 微生物病研究所, 特任研究員 (30626437)
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キーワード | C型肝炎ウイルス / 感染症 / 癌 / マウスモデル |
研究概要 |
C型肝炎ウイルス(HCV)の感染により惹起される慢性肝炎、肝硬変、肝細胞癌の発症機構の解析には、小型実験動物モデルの開発が必須である。しかしながら、未だマウス個体はもとより、マウス由来の細胞でHCVの実験室株であるJFH-1株(HCVcc)を効率よく感染増殖させた報告はない。本研究は、受容体候補分子とHCV ゲノムの翻訳複製を亢進する肝臓特異的なmicroRNAであるmiR-122を不死化マウス肝臓細胞に強制発現させて、HCVに感受性を示すマウス肝臓細胞株の樹立を目的とした。 まず、初代マウス肝細胞の不死化方法について検討し、よりアポリポ蛋白質や肝臓特異的マーカー遺伝子の発現等の肝機能が保持されていたE6/E7とhTERTを用いることにした。しかし、不死化の過程でmiR-122の発現量は大きく減少していたため、miR-122をレンチウイルスベクターで過剰発現させ、JFH-1株のレプリコン細胞を樹立した。しかしレプリコンRNAの配列解析から、マウス特異的な適応変異は認められなかった。 次に、抗HCV薬によりレプリコン細胞からHCV RNAを除去したcured細胞に対して、マルチシストロニックなレンチウイルスを用いて一つのウイルスベクターで4つの感染受容体候補分子(hCD81, hSR-B1, hCLDN-1, hOCLN)を同時に過剰発現させると、HCVのエンベロープタンパク質を持つシュードタイプウイルスの侵入が可能であった。さらにHCVccを接種したところ、HCVのゲノム複製とウイルスタンパク質の発現を確認できた。また、HCV RNA複製能の亢進を期待し、インターフェロン発現を誘導する転写因子であるIRF3をノックアウトしたマウス由来の肝細胞についても同様に検討を行ったが、有意なウイルス増殖を示す細胞株は得られなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まず、マルチシストロニックなレンチウイルスを用いて、一つのウイルスベクターで4つの感染受容体候補分子を同時に過剰発現させるシステムを構築できたことが挙げられる。これにより、複数のウイルスベクターを用いる既報と比べ、非常に効率良くHCV侵入を許容する細胞株を樹立することが可能となった。 また、薬剤耐性遺伝子を発現する組換えHCVを用いて感染を許容する細胞のスクリーニング法を樹立した。これまでにHCVに感受性を示すマウス培養細胞を樹立したが、ゲノム複製量が非常に低く、低感受性であった。その原因として、ウイルスタンパク質の発現を指標にHCVcc感染細胞を免疫染色により検出したところ、感染受容体候補因子を発現するマウスのcured細胞間でHCVccの感受性が大きく異なっていた点が挙げられる。感染受容体の導入はウイルスベクターを用いて行っているため、その挿入部位によって発現制御が異なると予想されるので、HCVccに高感受性を示すマウス肝細胞株の樹立には、このような工夫を加えた選抜方法が非常に有用となると考えられる。しかしHCVccを用いたスクリーニングで得られた細胞株でもHCV高感受性を示す細胞株を効率的には選抜できておらず、再度スクリーニングを繰り返す、あるいは他のスクリーニング法を試す必要があると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
昨年Dornerらにより、HCVにより誘導される自然免疫応答に関わるSTAT1やIRF7をノックアウトしたマウス由来の肝細胞において、より効率的な複製が観察されたと報告された(Nature, 2013)。そこで、現在マウス細胞に馴化したHCVの樹立を目指し、検討を行っている。 よりHCV高感受性のマウス不死化肝細胞株を選択する目的で、一度スクリーニングを行った細胞に対して再度、薬剤耐性遺伝子を発現する組換えHCV、あるいは生細胞を標識できるRNA検出プローブを用いて、HCV感染許容細胞のスクリーニングを行う。複数回スクリーニングを行うことで、より高感受性の細胞の効率的な選抜を試みる。その後、HCV RNAを除去した細胞を高感受性株として用いる。そして僅かでも粒子産生が認められた場合にはマウス肝細胞、あるいはガン細胞由来の培養細胞よりも生体内の肝細胞に近い性状を示すinduced hepatocyte-like(iHep)細胞(Sekiya et al., 2011)を用いて、さらなる馴化を行う。そしてマウスに馴化したHCVゲノムにどのような変異が導入されているのかを解析するとともに、それらの変異を挿入したJFH-1株のHCV RNAをin vitro transcriptionにより合成してマウス由来肝細胞へ導入し、in vitroでの培養が可能なマウス馴化HCVが得られたか否かを検証する。また、得られた結果を取りまとめ、成果の発表を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度にIRF3ノックアウトマウス由来の肝細胞を用いたHCV増殖モデルの樹立を試みたが、他の研究グループによる類似論文がNature誌に掲載されたため実験計画を練り直し、完全な感染・増殖が成立する、より増殖性の高いマウス馴化HCVを得るのに時間を要しているため。 マウス馴化HCVを用いたマウス肝細胞におけるHCV増殖の解析と学会での発表を次年度に行うこととし、未使用額はその経費に充てることとしたい。
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